僕の猫又がかわいすぎる件について-1
僕のアパートの部屋に、変な猫がいたんです。
しっぽか二本あるクロネコです。
ちゃんと出かけるとき、鍵も閉めたし窓も閉めたからどっからも入るはずがないんですよ。
夏だから閉めきりの部屋は激熱。
猫が倒れて死んでると思いましたよ。
窓を開けて、扇風機つけて、えっ、クーラーはついてますけど、電気代がこわくて使いません。
とりあえず、ぐてっとなっている猫の首をつかんで風呂場で浴槽に入れて、シャワーの水をかけました。
動物虐待ではないですよ。
僕が最近、熱中症とやらで頭痛と吐き気がしたとき、そうやって体温を下げたから。
「ふぎゃー! ふー!!」
浴槽に入れて正解でした。
意識を取り戻した猫は起き上がって、背中を丸めて、本気の威嚇をしています。
風呂場で同じことをしたら、ひっかかれていたと思います。
僕は猫が落ち着くまで部屋に戻ることにしました。
ジャンプして浴槽から上がれるかどうかっていうチビ猫です。
仔猫より少し育ったぐらいの猫です。
部屋で冷蔵庫から出した氷をかじって、夕方のニュース番組をみていると風呂場で「みぃ、みぃ、みゃあぁぁん」と甘えたような鳴き声がしました。
僕はタオルを持って浴室に行きました。
威嚇してはいない感じでしたので、風呂場に出して、畳をびしょびしょにされても困るので、タオルで拭いてやりました。
毛が濡れてぺったりした猫というのは見た目が貧相というか、なんともいえず、情けない感じです。
げしげしと拭いていると、浴室の扉の隙間からすごい勢いで部屋に猫が逃げました。
扇風機の前の特等席で、乾ききっていない体をプルプルと振っています。
まあ、びしょ濡れではないので被害は軽微です。むしろ拭くのに使ったタオルのほうが被害ありです。
猫って毛がけっこう抜けるんですね。
窓のところでぱたぱた振ってみましましたが、湿ったタオルですから毛が取りきれるわけがありません。
僕はあきらめて洗濯機に入れました。
ええ、他の洗濯物に毛がついても干したら乾いたら取れるんじゃないかって、安直に考えたんです。
さて、どうしたもんかなと僕は猫を少し離れてみてました。
いちおうどこから入ったのかわからないけど、お客さんなわけで、皿に牛乳を入れてやりました。
猫はすたすたと歩いてきて、僕の顔をちらっとみてから、ペロペロと飲み始めました。
「牛乳を飲んだら、帰るんだよ」
僕は猫に話しかけました。
「やだ」
僕はショックでした。
猫がしゃべるとしたら、語尾には「にゃー」「だにゃん」とか言うと思い込んでいたのです。
「帰るところなんてないし、野宿とかありえない。むり。蚊に刺されちゃう」
そう言うと前足で顔を撫でたりしています。
「うちは暑いよ。クーラーつけないし」
「扇風機つけて、網戸にして窓を開けて風が入るようにしてくれたらいいよ。がまんできなきゃ、シャワーあびるし」
猫は以外と頑固でした。
「クーラーなんて冷え性になるよ」
「そうなの?」
僕は猫に言いくるめられて、とりあえず今夜一晩だけ泊めるということになってしまいました。
僕は扇風機の風にあたってごろごろしてる猫を本を読みながら、ちらちらと見てました。
「すけべ」
僕はむきになって、小説を読んでいました。
すると猫がやってきて前足で文庫本のページをめくるのをじゃまするんです。
「なんでじゃまするのかな?」
猫じゃらしとか、蝶とか、ひらひらぱたぱたするものが気になるのが習性なのかなと僕が思っていると、猫が小説の文章をのぞいて朗読し始めました。
「やぁああん、らめぇ、羞恥の蕾を舐められて彼女は恥辱に打ち震えていた。取り澄ました彼女からは考えられない喘ぎ声と、腰をくねらせている姿に誘われるように愛蜜が溢れる泉にむしゃぶりついた。熱く熟れたそこは舐めほぐされて、花が開くように内側の色あざやかな媚肉か見えていた」
「朗読禁止」
「びらびらまんこを舐めたら、やぁああん、らめえ、って言うから舐めまくったら、腰をくねくね」
「省略禁止」
「どういう話なのこれ?」
あらすじはすごく単純なんですよ。
だいたいヒロインは「高貴な」「取り澄ました」女性。
女優、金持ちの人妻、女医、女弁護士、女教師。
これをいたぶるのはヤクザ、チンピラ。
暴力か陰謀による誘拐・監禁、縛り、毛剃り、膣内射精。
おまけで調教で野外プレイとか。
ヒロインは怯え、恥辱、哀願、絶望で自暴自棄、屈服と恍惚と心境が変化していくわけですよ。
「ふうん、そういうの好きなの?」
「縛ったりとかしたいわけじゃないよ」
「本当に?」
「うん。すけべじゃありませんって人が、最後にはすけべな自分を認めて、すけべな自分でも受け入れてほしいってなる。で、この人しかいないって男も女も求めあう。恋愛小説みたいな感じで、ヒロインが哀願してるうちはすれちがいなんだよね」
「それは縛ったり、ぶったり、嫌がることするからじゃないの、ばかなんじゃないの?」
「それはそうなんだけどね」
「ひげひっぱったり、しっぽ踏まれたり、ぶたれたら、ひっかくから。ダメ、絶対」
猫のほうが正論だと思ってしまいました。
「たしかに、ひっかかれたり、かまれたら痛いな」
僕はSM官能小説の文庫本を本棚に戻しました。
そばで朗読されると落ち着かないからです。
猫も話をして疲れたのか眠ったみたいです。
僕はトランクス一枚でシングルベットで仰向けに寝そべって部屋の電気をけしました。
夜中にトイレに行くとき猫を踏まないか心配になりましたが、昼間のアルバイトで疲れていたので、そのまま寝てしまいました。