凶王と側近兄弟の千日秘話-4
* 二百五十五夜(シャラフ)*
今日はナリーファの誕生日だと!?
――って、スィルとカルン! なんでお前等は知ってるんだ! しかも贈り物までちゃんと用意して!
「え? 本人に聞いたら、普通に教えてくれましたけど……陛下は聞かなかったんですか?」
……悪かったな。
とにかく、寝所に行くまでになんとか贈る物を考えなければ。
―― 夜。
誕生日の贈り物を見て、ナリーファが驚いた顔をした。
何しろ急だったから、衣服に飾り帯びなど一そろいと、新しい羽根ペンくらいしか思いつかなかったが、どうやら喜んでもらえたようだ。
おずおずと微笑むナリーファは、信じられないほど可愛い。
思わず抱きしめて口付けたくなったが、我慢した。贈り物を贈って迫るなど、卑怯な気がするからな。
……夜中にふと目が覚めたら、傍らでナリーファが俺の髪をそっと指先で撫でていた。
なんだかお前に愛でられるペットにでもなった気分だ。
まぁ、悪くない。俺がもし動物になったら、とびきり獰猛な猛獣だろうしな。そうしたらいつでもお前の傍にいて、お前を守って、お前のためだけに生きてやるさ。
* 三百七十三夜目(スィル)*
ナリーファさまが正妃となられて、丸一年です。
本日は宮殿で祝いが行われまして、ナリーファさまも極めて短い時間にだけ、出席なされました。
本来ならば、今夜はナリーファさまは後宮に戻らず、本殿の寝室でお過ごす予定でした。いつもと違った場所でしたら、二人の仲も少しは進むのではないかと思いましたが……。
よりによって暗殺者が乱入して、式典をぶち壊してくれました。
幸いにもナリーファさまに怪我はありませんでしたが、相当に衝撃を受けているようでしたので、今夜は警備を増やして、いつも通りに後宮へ戻られました。
しかし……これは不幸中の幸いかもしれません。
ナリーファさま! シャラフさまが貴女を守って闘った所を、きちんと見ましたね!? 見ましたよね!? あれは女性でしたら、間違いなく惚れてしまいますよね!!??
もう少しくらい、寝所でいい雰囲気になってあげても、良いのではないですかっっ!!??
* 五百夜目(シャラフ)*
隣国の王から使者が来た。
自分の娘を後宮に入れて、いずれは第二夫人にどうだという話だった。
―― ふざけるな。せっかく綺麗にした花壇に、余計な雑草を植える馬鹿がいるか。
この俺の返答は、スィルが実に見事な美辞麗句の断り文にしてくれた。
正妃になったナリーファが一向に懐妊しないという理由で、最近よくこの手の話が来る。
子を成すのにすべきことをしていないのだから、出来ないのは当然だろうが。
スィルとカルンも、まだ二年も経っていないのに、そうせっつくな!
いくら妻だからって、いきなり押し倒したりしてナリーファに嫌われたらどうする!
* 六百二十夜目(シャラフ) *
今年は不様な真似はせん!
ナリーファの誕生日はしっかりと覚えている!
* 七百六十二夜目(カルン)*
陛下がご機嫌だ。
昨夜はナリーファさまの頬っぺたを、少しだけ触ったらしい。
なぁ、兄貴……俺は思うんだけどさ……忍耐深いにも程があるんじゃねーの!?
* 八百十夜目(カルン)*
北部の国境を守る砦から、緊急の使者が来た。草原の馬賊が、山を越えて攻め込んできたらしい。
流浪する羊飼いたちの君主は、たまにこうしてウルジュラーンに攻め込んでくる。定住をしない奴等の目的は、土地の侵略ではなく物品の略奪だ。
陛下はすぐに軍を整えて北部へ向うよう指示を出した。俺と兄貴も、戦の準備を整える。
ナリーファさまは、いつものように留守番だ。
陛下は今回も、自分がいない間は絶対に部屋の外へ出るなと命じていた。警備も厳重にし、召使たちにも用心しろと厳命していた。
食べ物にも飲み物にも気をつけろと、すごい剣幕だ。
あの人、ここだけは厳しいんだ。無理もないんだけど……。