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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま
【ファンタジー 官能小説】

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凶王と側近兄弟の千日秘話-5



* 八百六十三夜目(スィル)*

 ついに馬賊の王を、シャラフさまが討ち取りました。
 カルンも敵武将の首を3つほど取ってきました。普段は陽気なお調子者にしか見えない弟ですが、戦場ではまさに鬼神です。
 山向こうの草原へ逃げた残党はいますが、あれだけ徹底的に叩けば、また何年かはこちらにちょっかいをかける余裕もないでしょう。

 今朝、陛下はカルンを連れて、一足先に都へ帰還なさりました。
 馬賊の王と戦った際に左腕を骨折なさったので、本来ならもう少し休養が必要なのですが、一日も早く帰りたいようです。
 表向きは、都で仕事が溜まるからと言っていましたが、本当はナリーファさまが心配でたまらないのでしょう。

 今回の戦で躯となった馬賊の王とシャラフさまが対峙するのは、これで二度目でした。
 一度目はシャラフさまが、まだ殿下と呼ばれていた頃で、父王の命にて馬賊の撃退にあたりました。その時に軍を率いていたのが、当時の副王だったこの男です。
 あの頃は、僕と弟もまだ経験が浅いうえに、兵の数もシャラフさまの異母兄たちの陰謀で、大幅に削られました。
 山岳地形を利用して、ようやく馬賊を退けられたのです。

 しかし、宮殿に帰ったシャラフさまを待っていたのは、毒殺された母君の亡骸でした。
 証拠は挙がりませんでしたが、当時の第三王子の仕業と思われます。子供時代に猫を殺したのも彼でした。
 そのうえ、失意のシャラフさまに父王から向けられたのは、敵の大将を逃がしたとの叱責ばかり。
 味方の損害が少なかった点や、迅速な対処は評価されず、立つ瀬もありません。
 思えば前王の判断力は、あの時点ですでに狂っていたのでしょう。

 結果、シャラフさまは監禁も同然の謹慎を命じられ、母君の葬儀に出席することも許されませんでした。
 あの方に、どんな手段を使っても王となる決意をさせたのは、あれがきっかけだと思われます。

 ――さて、北に残った僕の本領はこれからです。
 略奪被害を受けた住民たちの支援に、砦の修復指揮など、やることは山積みですから。


* 八百六十八夜(シャラフ)*

 宮殿に帰った。
 ナリーファはちゃんと生きていて、俺を出迎えてくれた。
 折れた腕に驚いたようだが、こんなのはじきに治る。お前が無事だった方が、よほど安心した。
 思わず寝台に座り込んで呟いたら、ナリーファは不思議そうに首をかしげた。

 ……解っている。警備を厳重にして、部屋から一歩も出るなと閉じ込めたのだから。無事でいるはずだ。
 お前は昔飼っていた猫でもないし、ましてや母上でもない。元気な猫とも、肌も髪も白い母上とも、まったく似ていない。
 それでも、俺の周りにはまだまだ沢山の敵がいて、お前はまた俺が持ってしまった特別な存在だ。
 少し興奮しすぎて、おかしくなっているのか、無性にそう伝えたくなった。

 ――ナリーファ、お前を愛しているんだ。

 だが、やけに眩暈がして口がうまく動かない。頭が痛くて体中が震えるほど寒いのに暑い。

 ……目が覚めたら、本宮殿にある自分の寝所に寝かされていた。
 傍にいた年寄りの侍医が言うには、高熱を出して倒れたそうだ。骨折したうえに無理な騎行がたたったらしい。
 気のせいか、眠っている間にナリーファの香りがしていたような気がする。そう言ったら、さっきまでここにいたのだと教えられた。
 後宮の女性が王の許可なく外に出るのは規則違反だが、大目に見てやってくれと頼まれた。

 馬鹿を言うな。
 こんな嬉しいことをされて、責められるわけがないだろう。


* 九百四十夜(カルン)*

 陛下の骨折がようやく完治した。おめでとうございます。
 情けない所を見せたくないから、完全に治るまで後宮にはいかん!
 なーんて意地を張ってたけど、見るからにナリーファさま欠乏症で、禁断症状が出そうだったからなぁ……。
 しかたないから俺は、せっせとナリーファさまのハンカチとかを借りてきて、陛下にこっそり渡す羽目になった。

 ……はっきり言って、こっちの方がよっぽど情けないです。凶王さま。
 そのハンカチで何してたか、絶対に誰にも知られるなよ!

 ともあれ、これで俺の、運び屋まがいの任務も終了だ。陛下の骨折完治、万歳!!
 北の復興作業を終えた兄貴も、明日には戻ってくるらしい。
 随分と久しぶりにナリーファさまの寝所を訪れる陛下に、俺は付き添う。
 扉をあけたナリーファさまは相変わらず、はにかむように少しだけ微笑んだ。

 ここに来てから随分とたつのに、やっぱりナリーファさまには、よく解らない部分がある。
 絶対に、陛下を好きだと思うんだけどなぁ……。




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