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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま
【ファンタジー 官能小説】

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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま-5


「夜伽を勤められない身体?」

 シャラフが軽く顔をしかめて首をかしげた。

「……処女でないとでも言うのか? まぁ、惜しいとは思うが、そこまで気にはせんぞ」

「いいえ。違います」

 ナリーファはきっぱり首をふる。
 男女の行為に対して、教育の一環として教えられてこそあれ、純潔は保っている。

「では、なんだ。病か?」

「いいえ、それも違います」

 また首を振ると、シャラフの片眉がピクッと跳ねあがった。
 あっと思った瞬間に、ナリーファは敷布へ組み敷かれていた。上衣の上から、胸の膨らみをぎゅっと握られる。

「あっ!?」

「謎かけか? 実は男だった……という線でもなさそうだしな。さっさと白状しないと、本当に勤められないのか、強制的に確かめるぞ」

 すっかりいつもの余裕を取り戻したシャラフが、笑いをかみ殺しながら、ナリーファを見下ろしている。

「え、それが……その、なんといえば良いか……」

 あたふたとうろたえるうちに、さっさと飾り帯が解かれ、絹の上衣を剥ぎ取られる。
 柔らかなモスリンの下着姿にされてしまい、あられもない姿を隠そうとした両手は、一まとめに掴まれて頭上へひねりあげられた。

「陛下……! どうか、お許し……んっ!」

 初めて唇を塞がれた。熱い舌に強引に唇を割られ、口内をかき混ぜられる。息苦しさに鼻奥で呻き、足が突っ張って敷布を蹴った。
 気づいたシャラフが小さく笑い、息継ぎをする時間をくれる。
 開放された唇にほっとする暇もなく、荒い呼吸を数回吐くと、また唇を塞がれて口内を嬲られる。
 舌が粘膜をこする濡れた音が響き、柔らかくて熱いシャラフの温度を口移しに与えられていく。
 何度もそれを繰り返すうちに、次第に頭の中がぼうっとしてきた。

「……ダメだ。俺がこの千夜……どれだけ我慢してきたと思っている。お前が嫌でないと知っていたら、とっくに抱いていた」

 シャラフは片手でナリーファの両手を押さえながら、もう片手で顎を掴む。
 耳朶へ吐息を吹き付けながら囁かれ、ビクリと肩が勝手に跳ねた。
 獰猛な鷹を思わせる鋭い目で、獲物をしっかりと捕らえながら、宣言される。

「お前の膝で寝るのもいいが、今夜こそは一緒に眠りたい……」

 その言葉にナリーファは凍りつき、悲鳴をあげた。



「い、いけません!!! 一緒に眠れば、陛下を蹴ってしまいます!!」



 ―― たっぷり一分間は、沈黙が流れた。


「……俺を蹴る?」

 しっかりとナリーファを捕らえたまま、シャラフが呆気にとられた顔で呟く。
 逃げ出すこともできず、ナリーファは必死で目を瞑って顔を逸らした。このまま消えてしまえたらどんなに良いだろうか。
 しかし、こうなったらもう隠しておくことはできす、涙ながらに白状した。

「む、昔から……私は、非常に寝相が悪くて……起きたときに、寝台にいるほうが珍しいほどなのです……」

 世の中の姫君とは、優雅な寝台ですこやかに、おしとやかに眠るものらしい。
 少なくとも、寝相が悪くて許されるのは、せいぜい子ども時代まで。

 ところがナリーファは、凄まじく悪い寝相が、成長しても治らなかった。
 どんなに枕を硬く抱きしめ、絶対に動くまいと緊張に身体を強ばらせていても、起きれば衣服はグチャグチャに乱れて半裸。
 寝台から落ちていることは当たり前。

 そして何より致命的なのは、夜中の熟睡中に他人が近づくと、無意識に猛攻撃してしまうらしいのだ。

 幸か不幸か、これはナリーファの身を守ることにもなった。

 おそらく、ナリーファを目の敵にしていた正妃の差し金とは思うが、故郷にいた頃に、暴漢がナリーファの寝所に忍び込むという事件が、二度ほどあった。

 しかし、男が熟眠しているナリーファに手をかけたところ、なんと眠ったままの姫に、殴られるは蹴られるわ……しまいに盛大に投げ飛ばされて壁に叩きつけられ、物音で飛び起きた召使たちに取り押さえられたのだ。

 事件は秘密裏にされたが、故国の宮殿でナリーファへついた密かなあだ名が 『眠れる獅子姫』 である。

 もちろん、ナリーファに一切の記憶はない。眼が覚めた時、妙に疲れて手足が痛かったくらいだ。
 起きている時ならとても適わないような屈強な男を、自分が眠りながらブチのめしたと言われても、本当だとは思えなかった。

 しかし二度目には、ナリーファがぐっすり眠りながら、暴漢の股間を強烈に蹴り上げるところを、召使の少女が目撃したのだ。
 彼女は正妃に疎まれるナリーファにも親切で、嘘をつくような少女ではなかった。

 そして業を煮やした正妃は、ナリーファが最初の床を共にした後で凶王を蹴飛ばし、怒りを買って殺されてしまえばいいとばかりに、シャラフの後宮へ強制的に送り込んだのだ。


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