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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま
【ファンタジー 官能小説】

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熱砂の凶王と眠りたくない王妃さま-4


 ――昨夜。

 シャラフが眠ったと思い、ナリーファは安堵のため息をついて、静かに身を引いた。
 自分の膝を柔らかいクッションと入れ替え、眠る王の傍らに座る。

 今夜もなんとかやりすごせた。
 あとは、このまま朝まで、決して眠らずにいればいいだけ。
 そう思い、ランプの灯りを消そうとしたときだった。
 眠っていたはずの王が起き上がり、ナリーファの手を掴んで止めた。

『あっ』

 起こしてしまったかと焦るナリーファを、鋭い瞳が睨みつける。

『……もう、千夜だ』

 初めて聞く、苦しそうな彼の声だった。

『お前の話は面白い。確かによく眠れる……だが本当は、俺に抱かれまいと誤魔化すために、懸命に話し続けているんじゃないか?』

『そ、それは……』

 ズバリと当てられ、返答に詰まった。

『違うのか? なら、このまま抱くぞ』

 剣だこのできた手に、頬をなぞられた。今までも戯れ程度に触れられたことはあったが、わずかな接触にも低い掠れた声にも、冗談では済まさない空気が満ちている。
 そのまま敷布に押し倒され、ナリーファは思わず大声で拒絶を叫び、シャラフを突き飛ばしてしまったのだ。

『いやああ!!!』

 後宮において、絶対にしてはいけないことだった。
 あの場で斬り殺されたとしても、文句は言えなかっただろう。
 だが、シャラフは難しい顔をして身を起こし、黙って部屋を出て行った。

 その後も昼間も、今日は一睡もできなかった。目を閉じると、シャラフのことばかりが頭に浮かんで眠れないのだ。
 もう二度と彼がここに来ることはないと思い、後宮からさっさと出て行けという通達を、ひたすら待っていた。


「――ナリーファ。話の続きを」

 穏やかな声で、再び促される。

「あ、ええと……怪鳥の巣に落ちた商人が……辺りを見渡すと……」

 必死に話し始めたが……駄目だった。物語の続きは、頭から煙のように消えてしまう。
 黙って俯き震えていると、シャラフがため息をついて身体を起こした。

「……昨日は、済まなかった」

 ポツリと聞こえた言葉に驚いて顔を上げると、凶王とまで呼ばれた彼が、途方にくれた子どものような顔で、こちらをみつめている。
 そこには怒りなど微塵もなく、困惑と後悔だけが浮かんでいた。

「い、いえ、陛下が謝られることなど、何も……」

「無理をするな。俺の悪評を聞いても後宮に入りたがるのは、相当に野心家の女か、下心のある親に遣された奴らばかりだ。
だが、お前は何もねだらないし、故郷の親族も、何も言ってこない。どうしてここに来たのかは知らないが……」

 ――つまりお前には、俺を好く要素がないわけだ。と、苦笑する彼を前に、目の奥が熱くて痛くなってきた。

「っ、違い、ます……」

 嗚咽が詰まって、上手く言葉にならない。

「お、おい、泣くな! 責めているわけじゃない!」

 信じられない事に、シャラフがおろおろと背中をさすってくれる。

「っふ……も、申し訳、ございません……で、ですが、私とて……陛下を、拒みたくて、拒んでいるのでは……」

 両手で顔を覆いながら訴えると、いきなりその手を掴んで引き剥がされた。

「……今、なんと言った?」

 ひどく真剣な顔で、詰め寄られた。

「……も、もうしわけ、ございません……?」

「その次だ! 拒みたいわけでないとは、俺との夜伽のことか!?」

 しっかり聞こえていたではないか。
 そして、ちゃんと理解もしていたクセに、わざわざ確認する王へ、ナリーファはしぶしぶ頷いた。

「はい……」

 泣いたせいと恥ずかしいので、頬が熱くてたまらない。きっと、チューリップのように真っ赤になっていることだろう。

「へ、陛下……恥ずかしながら私は、夜伽を勤めることのできない身体なのです……」

 いつのまにか大好きになっていたこの人に、この秘密は一生かくしておきたかった。
 震えながら口にしようとしても、言葉が詰まってしまう。

 正妃は、ナリーファが凶王の寵愛を受けることも期待して送り込んだのではない。
 むしろ、自身ではどうしようもない欠点で王の怒りをかい、殺されてしまえと狙ってのことだった。
 だからこそ、ナリーファがいまだに生きて正妃となっていることに驚きつつも、贈った見返りを要求できないのだ。



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