大好きな瞳-2
「姫様。はしたないです」
「お兄様とノアしか居ないから良いのっ!ねえ、ノアはどう思う?」
話の矛先を向けられたノアは渋々とジェノビアに向き直る。
「そうですね……確かに青い方が落ち着いて見えるかと」
「そうよね?!」
「ええ〜せっかくの成人式じゃないか。女性は皆こぞって派手に着飾るだろう?」
毎年、成人式ではドレスコンテストが開かれる程だ。
「姫であるノービィがあまり地味なのはちょっとねえ」
落ち着きも美しさのひとつだが、成人式では『これぞお姫様』な方が良い、とランスロットは渋る。
「落ち着いて見える方が良いの!大人の仲間入りなんだから!」
それでもジェノビアは迷っている様で、ランスロットを押し退けて鏡の前でドレスを身体に当ててみる。
「……姫様……他の色も……試されます?」
そこへ、1人の女性がポツポツ喋りながら他の色のドレスを抱えてきた。
「リュ……」
「リュディヴィーヌ♪」
現れた女性はランスロットの最愛の女神リュディヴィーヌ。
魔法学園で薬剤師として働く彼女だが、今日は人手が足りないからとお城に駆り出されたのだ。
その彼女に電光石火の如く駆け寄ったランスロットは、彼女の手からドレスを奪いノアに押し付けて白魚の様な手に頬擦りする。
その間、わずか0.2秒であった。
「私の女神リュディヴィーヌ♪貴女の美しさに我が妹の可愛らしさも霞んでしまいます」
何だか失礼な事を言われたジェノビアだったが、彼女はそれどころではない。
「ねえ、リュディはどんなドレスにした?」
ジェノビアの問いかけに、ランスロットに擦り擦りされている手とは反対の手の指を下唇に当てたリュディヴィーヌは、2年程前の事を思いだした。
「……そう……ですね……瞳の色に合わせたドレスが……その時の流行り……でした」
リュディヴィーヌは指を移動させて自分のオレンジ色の目を指差す。
「瞳の色!」
それを聞いたジェノビアは蒼い瞳をキラキラと輝かせた。
「それ良い!それにするわ!」
ジェノビアはノアの手から水色のドレスを奪い、自分の部屋へ駆け戻る。
「瞳の色に合わせるなら青じゃないのかな?」
首を傾げるランスロットに、リュディヴィーヌとノアは目を合わせて苦笑するのだった。