揺れる想い-2
明くる8月7日。月曜日。
週明け。夕方の海棠家の食卓はケンジの所にだけ箸が揃えて置かれたままだった。
「ケン兄遅いね」
「今度の土曜日、大会だからね」母親が言った。「今週は部活の時間も延長だって言ってたわ。あんた知らなかったの?」
「知ってたけど……」
「ふうん……」母親は怪訝な顔でマユミを見た。
「何よ」
「ちょっと前まであんた、ケンジの事心配したりする事なんかなかったのに、って思ったのよ」
「そ、そりゃ、に、肉親だもん。心配するよ」
「確かにここんとこあんたたち妙に仲良しだもんね。何かあったの?」
「え? べ、別に何もないよ」
「高二になってからあんたケンジの事脂臭い、オトコ臭いって避けてたりしたのに、唐突に親密になってるような……」
「ケ、ケン兄の部屋は、確かにオトコ臭いね……」マユミは野菜ミックスグレープジュースを慌てて飲み干した。
「その割には、あんた近頃、よくケンジに誘われて部屋に行ってない?」
「う、うん」
「ケンジの部屋で何してるの?」
「ケン兄がもらったチョコレートとか、一緒に食べてるんだよ」
「コーヒーも時々下から持ってってるわね。一緒に飲んでるの? ケンジの部屋で」
「うん」
「オトコ臭いの、気にならないわけ?」
「気にならない事はないけど……」
「用もないのにケンジの部屋に行ってるの? ただのチョコレートタイムするために?」
「よ、用事だったら、いろいろあるよ。こ、こないだはTシャツ借りなきゃいけなかったし」
「Tシャツ? ケンジの? なんで?」
「た、体育祭で着なきゃいけないんだ」
「なんでケンジのを借りなきゃいけないのよ。あんただって持ってるでしょ? 2、3枚」
「も、もういいでしょっ!」マユミは頬を赤らめて叫び、食器を持って立ち上がった。「ごちそうさまっ!」
マユミはさっさと、二階に上がっていった。
「よくわからない子だわね。我が子ながら」
「おまえ、よくあんなに追い詰めるような言い方ができるな……」父親が呆れたように言った。
「え? 私、そんなに追い詰めてた?」