序章-1
【序章】
サッカーボールを買った。
日本代表がピッチを去り、沸き上がった熱が引いていく中での事だった。
その日の営業の予定をこなし、得意先のビルを出た時の事だった。ふと目に止まった球体に描かれた鮮やかなラインに惹かれ、足は車を止めたコインパーキングに向かわず、そのままスポーツ店へと導かれた。
何故そうなったのかわからない、殆ど衝動買いだった。それでもさっき目にした派手な模様のワールドカップ公式ボールでは無く、その半額程の通常のボールを選んで買ったから、少しは冷静さが有ったのだろう。
会社の駐車場に車を止め、そこに人影が無いのを確認すると、居ても立っても居られずに買ったばかりのボールを取り出した。
両手で重さを確かめてから、おもむろに太ももに落としたボールは、ポンポンポンとリズムカルに弾み、心も弾んだ。
しかしそれは一瞬の事、甲で受けた次のタッチは、予想した軌道を描かず、降りたばかりの車のドアに当たり、想像以上の大きな音に顔をしかめた。