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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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無謀2-5

 問題が発生しない限り修学旅行へ行っている恵からはないが、夜、夫から電話はある。時間的にはどう考えても田倉とセックスしているタイミングだ。早い時間からベッドインするに決まっているからだ。決意の末か無謀の果てか、こうして家にまできているのだから。目的が分かったときから、疼く体を制御できなかった。
 田倉は夫と電話をしながらその妻を抱いた。そのときの鋼鉄のようなペニスをこの体が忘れることはない。荒れる大波のようにそれを打ち込まれ、享楽にふけ、精も根も尽き果てたにも関わらず、その夜、夫を求めたのはそのせいだ。狂おしいまでの快楽を与えられ、体がいつまでも冷め切らなかった。
 今度は夫からの電話を田倉が受けるのではなく、田倉の腕の中で悶える妻が夫と会話をする、といったシチュエーションを期待している。危険を犯してまで得たい目的のひとつに違いない。家に来ると知ったとき、そのようなアンモラルな行為をすぐに思い浮かべた。田倉は狂ったのだ。逆を考えると、それほどまでに愛されて。
 数日間、寝食を共にするということは、何回抱かれるのだろう。そう思うだけで下腹部がキュンとした。抱き合ったまま日夜を過ごすのだろうか、などと本気で思ったりもする。
 いつも情事のときは間際まで体の中に収めていて、帰り支度をしているときでさえ愛撫を繰り返し、いつも物足りない顔で別れるほどだ。その絶大なる精力により、経験したことのない快感を人妻の肉体に植え付けていった現実がある。
 逞しいペニスに貫かれ、夫と会話をしている自分を想像した。そんな状態で会話ができるのだろうか。変な声はでない? 息づかいは? 会話中、動きは止めてくれる? 田倉の声だけは絶対に聞かれないようにしないと。まさか田倉が受話器を奪って――など恐ろしい考えが次々に浮かんだ。狂っているのは田倉だけではない。
 電話の呼び出し音を耳にしたとたん白日夢は崩壊した。背徳行為による罪悪感は常に抱いているが、今日ほど感じたことはない。そして罪悪感にも度合いがあることに気づかされ愕然とした。
 どのくらい泣いていただろう。涙をぬぐいながらキッチンへ向かう。洗っていない食器の元へと無意識に足が向く。蛇口を捻りスポンジを濡らし、とろりと洗剤をたらして泡立てる。健気なものでこんなときでも身についた習慣から抜け出ることができない。カシャカシャ音をたてる食器を見つめ、無理して口角を上げる。洗い終わった食器を布巾で一つひとつ丁寧にぬぐい、食器棚に全部収め終えた。
 ――全部終わった。
 人の目からはどれほどの量の涙がでるのだろう。そんなことを考えながら、こぼれ落ちる涙を止めることはできない。
 涙腺は決して強くはないが、こんなに泣くのは初めてだ。田倉と逢うようになってから落涙の回数が明らかに増えた。
 夫の声が聞きたい。
 受話器に手を伸ばしたとき、金縛りにでもあったように体が硬直した。
 ――あなたはずるい。
 田倉の言葉が胸に突き刺さった。情夫を失うと、たちまち夫の元へ帰する想いが働いた。不倫が発覚しないよう行動の全てを嘘で固め、自分だけは戻ることのできる場所を確保しておき、その間、欲しいだけ快楽を貪り続ける。田倉の言ったことは全て的を射ていた。疚しさに襲われ、胸が押しつぶされそうだった。


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