その1 ちちろのむしと出会ひけり-9
翌日、すでに瑚琳坊の同居人の若い娘の噂は長屋中に広まり、知らないのは井戸端で、ふてぶてしく寝そべって いる太った猫ぐらいのものだった。手習い子たちも算盤そっちのけで奥の部屋を覗き込み、囁きあっていた。
「き、綺麗な姉ちゃんだな」「うん、色が白くて人形みたいだ」「どっかの絵姿で見たぞ、あの姉ちゃん」「嘘つ け」「嘘なもんか」「おいら、お嫁さんにしたいな」「馬鹿云ってらあ」瑚琳坊がいくら注意しても、隙を見ては襖に取り付いて覗き込む始末 だった。お鈴は繕い物をしながら奥の部屋から微笑みかけたが、そのたびに子供らは顔に血の色をのぼせて、パッと襖から離れ、お互いの赤い 顔を指さしあってはゲラゲラ笑い転げていた。
長屋のおかみさん連中も真っ先にお鈴のことを話の種にし、
「従妹とか云ってるけど本当かい?」「ありゃあ、押し掛け女房じゃないのかい?」「でもまだ十四、五のおぼこ だよ、そんなことぁないよ」「瑚琳坊はいくつだっけ? 三十? じゃあ、一回り以上も歳が離れてる……」「でも、あの好き者だろう、とっ くに手ぇ付けてるに違いないよ」
口角沫(あわ)を飛ばして憶測、邪推が飛び交った。
湯屋の二階でも宿六たちが碁を打ったり茶を飲んだりしながら瑚琳坊をやっかんでいた。
「見たかい? あのお鈴とかいう娘っこ。透き通るような肌たぁ、あのことを云うんだね。おれぁすれ違った時、 ブルブルっと震えが来たね」「小便でもちびったか?」「いやあ、そんなことはねえが、魔羅がピクッと疼いたね」「おめえのは魔羅たぁ云わ ねえ。ちんちんで十分だ」「なにおぅ!」「……だがなあ、瑚琳坊のあの、みみず腫れの一物が、もう入っちまったのかなあ……娘っこの開 (ぼぼ)に」「くーーっ、畜生!」「あっ、こらっ、……あーあ、碁盤を蹴飛ばしやがった」「この野郎、せっかくいい手になってきたのを台 無しにしやがって。表へ出ろいっ!」
賑やかな湯屋の二階が、より一層沸き立った。
当然、お鈴の噂はお峰の耳にも入り、彼女は血相を変えて瑚琳坊のもとへと押し掛けた。
「瑚琳坊! あたしというものがありながら、こんな娘を引っぱりこんで!」
物凄い形相でお鈴を睨め付けるや、彼女に食ってかかろうとした。お鈴は蒼白な顔で身をすくめるばかりである。 慌てて二人の間に割って入る瑚琳坊。
「お峰、こいつはなあ、おれの従妹で」
「嘘。うそうそうそっ!」
縮こまっているお鈴の目の前で瑚琳坊の坊主頭をポカポカと殴りつけた。
「や、やめろ、誤解だ……。話を、話を聞け」
「うるさい! この浮気者!」
「いて、痛えな。やめろったら」
さんざん殴られたが、瑚琳坊は喚き散らすお峰をようやく外に押し出すと、なだめすかして、そのまま出会茶屋へ と連れていった。
男 女密会の狭苦しい一室で、ぐずるお峰を裸に剥き、魔羅をしごいて無理矢理勃起させると、慣れ親しんだ女陰へズブリとねじ込んだ。『今泣い た烏がもう笑ろた』とはこのことで、お峰はすぐにフンフン鼻を鳴らし始め、みみず腫れの雄根によって悦楽の淵へと落ちていった。結局、お 峰は七回気をやるまで瑚琳坊を離さず、三度も子種を搾り取られた瑚琳坊は肩で息をつきながら、
「分かったろう、お峰。おれの女はおまえだけだ」
汗で貼り付いたお峰の鬢のほつれ毛を指で直してやりながら囁いた。ようやく嫉妬の炎も治まったのか、お峰は瑚 琳坊の首を掻き抱き、
「さっきは御免よぅ、痛かったろう。……従妹がいるならいるで、もっと早くに教えておくれな」
光る頭に接吻の嵐が降り注いだ。