寝取りの騒ぎ、宵の両国-6
(あの時、呆けたお咲の尻の下が濡れていたのは、これと同じことか……)
権造はあらためて嫉妬の炎に身を焼かれ、思わず大きく叫んでいた。
「ちくしょう、てめえら!」
黒装束の男たちが一斉に振り向き、中の一人が素早く駆け寄ると、何か硬い物で権造の頭をしたたかに殴りつけ た。岡っ引きはまた、闇の中へと落ちていった。
く せ者連中が去ったあと、権造はおりんに身体を揺さぶられて意識を取り戻した。手足の捕縛を解かれ、あたりを見回すと平六と銀助が部屋のか たすみで小さくかしこまっていた。おりんは単衣を軽く羽織っただけの姿で、権造の頭部にできた大きなたんこぶをなでさすりながら言った。
「連中をむざむざ取り逃がしちまったね。もっとも、あんたら全員、縛られてたからどうしようもないけどさ」
不手際だった。まさか相手が五人の集団だとは思いもよらなかった。権造は頭の痛みと後悔とで、苦虫を噛みつぶ したような顔になった。おりんは哀れみの視線を彼に注いでいた。それに気づいた権造はわざと大きな声を上げた。
「それにしてもおりん、おまえよく呆けなかったなあ。あれほど犯られて大丈夫だったかい?」
すると彼女は乱れた髷を直しながらせせら笑った。
「あたしを誰だと思ってるんだい? 吉原では千本の魔羅を食らった千本桜の花魁と呼ばれていたんだよ。五人を 相手にするくらい何でもないよ」
「それにしては、大いによがってたじゃねえか」
「ああ、久しぶりだから楽しませてもらったよ。でも、我を忘れるようなへまはしなかったさ。その証拠に」おり んは黒い布の切れ端を取り出した。「やってる最中に相手の背中を掻きむしるふりをして、これをちぎり取ってやったよ。真っ黒無地のようだ が菱形の模様がうっすらと見える。これはどこか北の国のものかもしれないね……。それに、やつらの一人の腕に思いっきり噛みついてやった よ。あの歯形は当分消えないだろうね。それも下手人探しの役にたつだろう? ……それにしても、ひどく激しく乱れる女だと思ったに違いな いよ」
おりんは高らかに笑った。
「ほう、さすがはおりん。だがな、それだけでは連中の手がかりにはならねえ。他に、何か気づいたことはなかっ たか?」
「そうだねえ、……そういえば言葉遣いがお武家のものだったね。無頼漢をきどった言い方をしてはいたが、やつ らの本性は侍だ。それもどこか、なまりがあった……。そう、あれは北国のなまり。……津軽越中の田舎侍だね」
「ほう、そこまで分かるか?」
「わっちは花魁として、ありとあらゆる教養を身につけされられたからね。たいがいのことは分かりんす」
おりんは得意げに上を向いた。権造はその場でガバッと両手をつくと、元花魁に深々と頭を垂れた。
「ありがてぇ。これでやつらを挙げられる。さあ、平六、銀助、ぐずぐずしちゃあいられねえぞ」
権造たちは上役同心のもとへ飛ぶように駆けていった。