*-3
湊といつも一緒にいる中村啓吾、通称けいちゃんは、頭が悪くていつも湊に授業のプリントをうつさせてもらっているという噂を聞いたことがある。
聞いたことがあるというか、いつも湊が言ってる。
とか言う湊も授業中寝てるので、同じ学科の冴えない男子にプリントをうつさせてもらっている。
どーしよーもない男たちのエサになる冴えない男子が可哀想だ。
結局うつさせた湊は学年トップだし、悔しいだろーに。
そんな湊と一緒にいるけいちゃんは、見た目はかなり頭が良さそう。
黒髪で黒ぶちメガネ、低いトーンで話すその感じはかなり物静かな印象を与える。
鼻が高くてハーフみたい…というのが陽向の中での印象だった。
そんな綺麗な顔立ちのクールな人が千秋と付き合うなんて考えられない。
「なんでまたけいちゃんなのよ?!」
奈緒の言葉に千秋はうっとりした顔で「聞きたい?」と言った。
出会いはもちろん、あの飲み会だった。
あの日、合コンのように全員で連絡先を交換し、千秋は湊以外の男と色々とやり取りをしたらしい。
その中でも啓吾が一番ヒットしたとか。
メールのタイミングとか趣味とかが合ったみたいだ。
「しかも、見れば見るほどやっぱりカッコイイの!食堂で会う度にキュンキュンしちゃってさー、これは恋なのかもーとか思ったら、もうけいちゃんの事しか考えらんなくて!」
千秋が発狂する。
「で、千秋がアタックしたんだ」
「そーなの!したらけいちゃんも、そーだったみたいで…」
「あの飲み会は大成功だったってことだね!」
「そーゆーこっと!」
「じゃあこの飲み会の後はけいちゃんと…」
「ちょっとやめてよー!…陽向も五十嵐と…でしょ?」
「えっ?!そんな予定ないよ!」
みんなで爆笑する。
そんなこんなで始まった飲み会。
荒れに荒れて空のグラスが大量に端に並べ立られ、それを落とすまいと陽向はテーブルに突っ伏し、梅酒ロックを飲まされた。
「奈緒…ホントにやばいから…。だめ…」
「とか言う陽向の左手には梅酒ロック〜♪」
「あー…」
奈緒のお酒の強さには敵わない。
この1時間で、今まで飲んだことのないほどのアルコールを体内に迎え入れた。
お酒に相当弱い陽向は両手の指でバツを作り懇願した。
「そんなことしてもダメー」
「あたしが一番不利じゃんこんなの…」
「そんなことないよ、楓だって脱ぎたがってるよー?」
奈緒の隣に座る楓がニットを脱ぎたそうにウズウズしている。
「あー、そんなの演技だ!」
楓は酔うと、下着なんじゃないかというところまで脱ぐ。
夏休みに飲んだ時だってそうだった。
暑いと言ってビキニになり始め、驚いた。
複数の男が寄ってきたことは言うまでもない。
千秋、楓と言い、奈緒もそれなりにグラマーな体系だ。
看護学部でもわりと恐れられていた。
見た目が。
そんな3人に似ても似つかない陽向がこの3人と仲が良いのもおかしな話だ。
でも、性格や波長が合うんだと思う。
こんな友達に出会えて良かったな、と心から思う。
陽向はテーブルに突っ伏しながらそんな事を思っていた。
「でさー…」
気付いたら眠っていた。
罰ゲームはとっくに終わっていたみたいだ。
すぐ近くから懐かしい匂いがする。
「陽向とチューしてよー!」
「あ?コイツ相当酔ってる?まじ面倒くせぇ」
ははは、と笑うこの声…。
陽向はガバッと起き上がって隣を見た。
「え…ちょ……。え、何これっ!?」
隣では湊が冷ややかな目で「あ。起きた」とこちらを見ていた。
「え…え……なに?」
焦る陽向を横目に、飲み会は楽しそうに進んでいる。
周りを見ると、雅紀、啓吾、尊もいるではないか。
「呼んだの、さっき」
奈緒が楽しそうに言う。
陽向が相当酔っ払い呂律も回らなくなっていた頃、奈緒が4人にメールを送ったらしい。
一番最初に来たのは意外にも湊で、陽向の隣に座るなり、頭を引っ叩いたとか。
そんなの全然記憶にない。
「バカじゃないの…。なんでこんな…とこ…*○×%\」
「あ?ちゃんと喋れや」
頭をグッと引き上げられる。
虚ろな目で湊をとらえる。
目が少し赤い。
湊も相当飲んでるの?
いつからいるの?
どれだけ時間は過ぎたんだろう。
もう、わかんないや。
「キース!キース!」
という謎のコール。
柔らかいものが唇に触れる。
触れる瞬間「ごめん」と何故か謝られた。
陽向はそのまま湊の肩にくたりともたれかかり、モヤモヤした気分のまま眠りに落ちた。
目を開けた時、家の近くの公園にいることに気付いた。
ゆっくり揺れていて、まるで揺りかごの中にいるみたい。
景色がゆらゆらと通り過ぎていく。
「ん…あ……」
「陽向?起きた?」
「う…」
見ていた景色がゆっくりと自分の身長に合い、足が地面についたのが分かる。
生温い体液が足から全身にジワジワと込み上げてくる感覚が気持ち悪い。
「懐かしいな、この感じ」
「へ…?」
「酔っ払ったお前おんぶして家まで届ける感じ。前にあいつらと飲んだ時もそーだったもんな」
「え…。そーだっけ…」
陽向が笑うと、湊も笑った。
「帰れそ?」
「ん…頑張る」
「帰す気ねーけど」
「…え?」
湊はそう言うと、近くのベンチに陽向を座らせると甘く深いキスをした。