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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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来客-1

 明くる日。1月10日。土曜日。
 自宅のアパートで、あまりの頭痛のひどさに目を覚ました亜紀は、パジャマのまま狭いキッチンまでよたよたと歩き、冷蔵庫を開けて、パック入りのレモンジュースを取り出した。
「飲み過ぎちゃった……」

 亜紀は頭を抱えて、ベッドの端に腰を下ろした。「今日が休みで良かった……」
 彼女は壁に掛かっているスヌーピーの掛け時計に目をやった。
「もう9時なんだ……。いっか、今日は一日寝ていよ」

 ピンポン。部屋の呼び鈴が鳴らされた。
 亜紀は慌てて玄関に走り、ドアスコープを覗いた。
 ピンポン。もう一度呼び鈴が鳴らされた。亜紀はドアを開けた。
「タクちゃん!」
「よお、亜紀ンこ、久しぶり、元気だったか?」
「どうしたの? いきなり」
「買い出し」
「買い出し?」
「そ、買い出し。にしてもあんた、まだパジャマ姿なのか?」
「今日はゆっくりしていようと思って」

 両手に荷物を持った、その背の高い人物は、亜紀を見ながら呆れたように笑った。
「どうでもいいけど亜紀ンこ、いいかげん中に入れてくれないかな。荷物重くてしょうがないんだが」ハスキーな低い声で言った後、彼女は荷物をよいしょと持ち直した。


 亜紀の元をいきなり訪ねてきたのは彼女の従姉妹で、隣県の亜紀の実家近くに住む一つ年上の北原拓海(27)。ベリーショートの髪を金髪に染めた、ひょろりと背の高い女性だった。亜紀とは幼い時から姉妹同然のつき合いだった。


「どうしたんだ? 顔が紫色だぞ、亜紀ンこ」
「昨夜、同窓会があってね」
「二日酔いかよ……だらしねえなー」
「タクちゃんこそ、まだそんな言葉遣いなの? 全然女らしくならないね。声も低いし、まるで男だよ」
 亜紀は呆れたように笑った。
「ほっといてもらおうか。これがあたしのキャラなんだよ」
「ま、仕方ないね」亜紀は頭を抱えて力なく笑った。
「昨夜は遅かったのか? 帰り」
「それがよく覚えてないんだよね。あたし」
「そんなに酔ってたのかよ」
「気づいたらこの部屋で寝てた」
 拓海は眉間に深い皺を作った。「危ないやつだな。あんた、記憶が飛んでる間に、誰かに何かされてっかも知れないぞ」
「ないない。それはない」亜紀は右手を顔の前でひらひらさせて呆れたように笑った。


 亜紀は、ティーポットから二つのカップに黄金色のダージリンティを注いだ。
「タクちゃん、旦那さんとはうまくいってるの?」
「もうラブラブだ。羨ましいだろ。って、亜紀ンこはまだ結婚考えてないのか?」
「だって、相手いないし……」亜紀は拗ねたように言った。
「そう来るだろうと思って……」拓海は大きなバッグをごそごそと漁り、一冊のファイルを取り出した。「ほれ、あんたの母ちゃんから預かってきた」

 亜紀は目の前に置かれたそのファイルを開けてみた。
 見知らぬ男性のスーツ姿の正面の写真、その下に男性が犬と戯れているスナップ写真、それに本人の生年月日、仕事先、そして簡単なプロフィールが記されていた。

「な、何よこれ?!」
「何って、見合い用のファイルだ。あんたの母ちゃんが集めた7人分」
「やめてっ! あたしまだ結婚する気なんかないんだからね」亜紀はますます赤くなってファイルを乱暴に閉じた。
「だったら、母ちゃんにそう言えよ」拓海は涼しい顔で紅茶を口に運んだ。

 拓海はテーブルにほおづえをついて亜紀の顔をじっと見つめた。「あんたももういい歳なんだし、一人暮らしやってると、いろいろ失うモノも増えていくだろ?」
「何よ、失うモノって」
「あんた、二日酔いで今日は一日ぐだぐだして過ごそう、って思ってたんじゃない?」
「う……」
「だろ? 一人で暮らしてっとさ、どんどんずぼらになったり自堕落になったりしていくもんだ。恋人とか夫とかが居れば、ある程度自分の行動にも節度ってもんが保てるわけよ。それに、」
 拓海はにやりと笑った。
「そんな人がいれば、甘えることもできるし、身体も癒してくれるだろ?」
「そんなこと言ったって……」

「前にちらっと聞いたことあったんだけどさ、あんたつき合ってる人がいたんじゃなかったっけ? 叔母さんの話じゃ何でも同級生の男とかって」

 亜紀は沈んだ声で言った。「別れた」

「そうか。叔母さんの言ってた通りか……。でもなんで? やっぱり性格が合わなかったとか?」
「ううん、あっちから別れようって言ってきたんだ」
 拓海は憤って言った。「あんたのどこが不満だったんだ。連れて来い、今すぐ。あたしが問いただしてやるっ」
「やめてよ、タクちゃん!」亜紀は自分で出した大声にたじろいで、一つ咳払いをして紅茶のカップを手に取った。「いろいろ思う所があったんだよ、きっと……。それにもう三年になるし。別れて……」

 しばらく亜紀の様子を見ていた拓海は、肩をすくめてため息混じりに言った。「ま、済んだことをあれこれ言ってもしょうがないか。」


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