同窓会-3
聡美は、ひどくばつが悪そうに春男に目を向けた。「私、なんかまずいこと言っちゃったみたいね……」
ごま団子を食べ終わり、紙ナプキンで口元を拭っていた真也が口を挟んだ。「遼って、亜紀とは別れたって言ってたけど、あの態度……」
春男が静かに言った。「やつの中には未練があるな、亜紀への。間違いない」
「あたし、情報持ってるよ」春男の背後から声がした。
春男は振り向いた。「何だ、愛子、どうしたんだ、いきなり首突っ込んできやがって」
「何よ。そんな鬱陶しそうに言わなくてもいいじゃん」
聡美が促した。「情報って? 愛子」
「うん。秋月くん、今月結婚するつもりだったらしいよ」
「ええっ?!」春男も聡美も真也も同じように大声を出した。
「な、何だよ結婚って」
「誰と?!」
「ずいぶんいきなりな話だな」
「去年の秋にお見合いして、つき合ってた女の人と」愛子が小さな声で言った。
「だったら、何だよ、今の遼の態度」
「破談になったって」
「はあ?!」
「いつ?」
「年末」
「そ、それもまたいきなりな話……」
「なんで愛子、そんなこと知ってるのよ」聡美が訊いた。
「その秋月くんのつき合ってた相手っていうのが、あたしの職場の同僚の友達だもん」
「へえ」
「だ、だけど、結婚を考えてたってことは、遼とその彼女、けっこうな仲になってたんじゃないのか?」
「それがねー」愛子が肩をすくめた。
「何だよ」
「デートを何回かしたらしいけど、秋月くん、手を握ったこともなかったんだって」
「はあ?」
「そんなのデートって言うのかよ」
「破談になったのも、彼女の方が、秋月くんの様子を見て、脈なしって思ったからなんだ。って言うか」
「え?」
「結婚するつもりでいたのは、秋月くんだけ。その彼女は、そんなことまでまだ考えてなかったんだって。秋月くん自身も、そのことはほとんど誰にも言ってなかったみたいよ」
「しかし、なんで遼のやつ、そんな相手と結婚しようなんて思ってたんかな」
「つき合ってたその人、ちょっとかわいそう……って言うか、かなり失礼な話だよね」
「でもよ、彼女の方はそのつもりじゃなかったんだろ? まだ」
「そうだね。軽く試用期間ぐらいに考えてたんじゃないかな」愛子がテーブルにあった大学芋に爪楊枝を刺して口に運んだ。「同僚が言うには、その彼女、それほど落ち込んでる風でもなく、結構さっぱりしてたって」
「ってことは、遼だけが何か思い詰めてた、とか……」
「亜紀のこと、何とかして忘れたかった……ってことなのかな」聡美が寂しそうに言った。
「でも、そう簡単にはいかなかった」
「さっきの秋月くんの態度見たら間違いないね。亜紀のことが忘れられないのよ、彼」
「ううむ……」春男が唸った。「確かにそれが一番納得いく理由」
「で、でもさ、」聡美が言った。「その亜紀は省悟くんと一緒だったんでしょ?」
「省悟って、亜紀をめぐって遼と戦ったんだよな、確か。高校ん時」
「亜紀は秋月くんを選んだけどね、その時……」
「省悟も諦めてなかったんだな、亜紀のこと……」
「……やばいな」真也が少し青ざめた顔で呟いた。
「歴史は繰り返す?」
「しゅ、修羅場になりそうな予感……」春男も低い声で言った。