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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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一枚足りない!-7

 ***

 疲労しきっていたハーピー少女は、湯浴みをして宿の寝台に横たわると、死んだように眠りこけてしまった。

 ディキシスは用心深く部屋の戸締りを確認して、その傍らに腰掛ける。起こさないように気をつけて、鮮やかな黄緑の髪をそっと指先で撫でた。

 一ヶ月と少し前に、キルラクルシュを討伐したものの、それがそっくりな贋物だと気づいた時には落胆した。
 しかし吸血鬼たちへの供物という名目で、民から税を搾り取っていたダニのような王家を潰す足がかりにはできたのだ。

 当然ながら反逆者として追われる羽目になり、レムナにもかなりの苦労をかけさせた。
 彼女の翼の色はかなり独特だから、飛べばすぐに見つかってしまう。

 道中でディキシスは追っ手を引きつけるために、レムナと別行動をしたが、彼女は馬も途中で失い、徒歩で非常に苦労してここまで来たという。
 昼間の親切な青年と、風変わりな白髪の少女がいなければ、さらに苦労していただろうと、レムナは言っていた。

(それにしても、レムナが敵わないなんて……)

 ディキシスは、さり気なく告げられた事実に驚いた。
 疲弊しきっていたとはいえ、レムナを素早く捕らえて荷台へ放り込むなど、普通の人間ができる芸当ではない。
 しかも相手は、細身の少女だったらしい。
 赤い半眼の瞳で、可愛い顔立ちなのに、ちょっと不気味な無表情だと、レムナは言っていた。

(まさかな……)

 十二年前に一度だけ見た、本物のキルラクルシュの顔が、ディキシスの脳裏を過ぎる。
 赤い瞳はドロリとした沼のように澱み、感情というものがすっぽりと落ち抜けた無表情が、整いすぎているほどの顔立ちを、台無しにしていた。
 キルラクルシュは日光にすら耐性があり、薄陽の時でさえも怯まずに戦ったと伝えられている。今日くらいの空模様なら、平気で出歩けるだろう。

 しかし、昼間の少女の髪は、雪を思わせる純白だったらしい。
 キルラクルシュは、闇を溶かして染め上げたような艶やかな黒髪だ。

 それに、無慈悲で残虐非道な女吸血鬼が、迷子のハーピーを助けたりするだろうか。……やり方はメチャクチャだったようだが。
 それにしても、有り得ない話だ。

(……偶然か)

 そう結論づけ、ディキシスはレムナの隣へ静かに身を横たえる。
 旅の疲労が堪えているのは、彼も同じだった。
 ともかく、もしもキルラクルシュが生き延びているとしたら、この国にいる可能性が最も高い。

 ディキシスの憎悪の根源にある女吸血鬼を、必ず見つけて殺す。
 復讐を成し遂げる。

(そのために、俺は……)

 人間であることを捨てた。
 自分に懐くレムナを、武器として酷使している。

 キルラクルシュを殺せないのならば、その全ては無駄となり、きっともう二度と、立ちあがれない。



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