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鳥飼いの復讐者
【ファンタジー 官能小説】

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復讐やめますか? それとも人間やめますか?-1


 長い間、吸血鬼に苦しめられていた国があった。
 全ての魔物は、自分たちでの繁殖が出来ず、特別な泉から産まれる。
 吸血鬼たちは黒い森の奥に住処を持ち、そこでいくつもの泉から仲間を増やしていた。そして人里に降りてきては人間を犯し、血を啜るのだ。
 王国の民は、何度も吸血鬼たちを討伐せんと、戦いを挑んだ。
 しかし、うっそうとした深い森林は昼でも暗く、湿気が多いために火を放つのも不可能だ。草木を操る吸血鬼たちにとって、黒い森は頑強な砦であった。

 そして百数十年も昔。
 吸血鬼たちの中に、凄まじい力をもつ女吸血鬼が現れたのだ。
 黒鉄の仮面で顔を覆った女吸血鬼キルラクルシュの前に、万を越す人間が敗れて屍の山を築いた。
 近隣諸国までも巻き込み、百年も戦い続けた末に、ついに彼女は人間達の気力までもへし折った。
 王国は吸血鬼たちへ、毎年決まった人数の生贄と、金銀財宝の供物を差し出すことで、他の民は襲わないでくれと申し出た。
 そして条約は結ばれ、何十年もの時が静かに過ぎていった。

****

 ―― 王都の円形広場は、歓喜に沸く民の熱気で溢れかえっていた。
 この国は貧富の差が激しく、民の大半はやせ細った貧しい身なりの者だ。広場から見える豪奢な白亜の城や、きらびやかな高級店が連なる大通りとの対比が、よけいにそれを浮き彫りにしていた。
 それでもゆるやかな風は、街路樹に咲く白いリンゴの花から良い香りを平等に広め、空は民を祝福するように、どこまでも青く澄み渡っている。

 熱狂の始まりは一週間前。
 突然やってきた旅の青年が、自分の飼っている鳥人《ハーピー》の少女一人だけを伴って黒い森へ乗り込み、たった二人で吸血鬼たちを討伐してしまったのだ。
 何人かは逃げてしまったようだが、それでも最強の脅威であった女吸血鬼キルラクルシュを討ち取ったことで、吸血鬼の脅威は終わりを告げた。

 涙と共に家族から生贄を差し出し、彼らに金銀財宝を差し出すために、高い税金を課せられて極貧に喘いでいた民は、そんな苦労の日々も終わったと、やつれた顔で笑い会った。
 子どもたちも、広場で『勇者さま』を一目見ようと、興奮して駆けていく。

 この広場は罪人の処刑場であり、中央には苔むした木の台が置かれていた。晒し台や絞首刑台など、罪人たちがここで様々に無残な処刑をされる。
 晒し台の一つには、黒い日よけ布を張った木箱が置いてあった。
 外からでは良く見えないが、奥には女吸血鬼キルラクルシュの生首が釘で打ち付けられている。

 吸血鬼の身体は日光にあてれば、数時間で灰になってしまう。胴体は灰にされたが、半分だけ残っていた顔は、こうして晒されていた。日よけ布の奥で、黒い髪をした生首は腐り溶け、無数の蛆を這わせて異臭を放っている。


 蝿の飛び交う木箱の前に、壮年の国王と美しい末姫が、護衛の騎士に囲まれて立っていた。
 これから吸血鬼を殲滅した勇者に、勲章を授ける授与式を行うのだ。
 王も姫も豪奢に着飾り、堂々と立っていたが、顔はわずかにひきつっていた。
 本来ならば式典は、豪華な王宮で行われるはずだったのに、勲章を受ける青年は、金銀の褒美などいらぬ代わりに、どうしても式典をこの広場にしてくれと申し出たのだ。

「……わざわざ仕留めた死体の前で称えてくれとは、わかりやすい虚栄心ですこと」

 王の傍らで、姫が扇で蝿と悪臭を払い除けながら、小声で険悪に呟いた。
 周囲には、きらびやかな武装をした近衛兵たちが並び、国の高官や諸外国の大使なども参列している。
 武装した兵が列席者を護衛し、見物に集まる民が近づきすぎないように、気を配っていた。

 ほどなく正午となり、開始のファンファーレが響くと騎士たちが道を開け、一人の青年が、鳥女《ハーピー》の少女を後ろに連れて歩いてくる。

 日焼けした精悍な顔立ちの青年は、二十代の半ばといったところだろうか。
 逞しい長身には王室から与えられた騎士のマントを羽織り、腰に大剣を皮ベルトで留めている。
 髪は広場の土のような赤褐色。夕陽色の瞳は猛禽のように鋭い。

 壇上にあがった青年は、王の前に片膝をつき、ハーピー少女も一歩下がってそれに習った。

 少女の容貌を一言で表せば、『派手』だ。
 背中に伸びた大きな翼は、黄緑をベースに赤や緑の混じった、南国の鳥を思わせる極彩色。極端に短く刈った髪も、翼と同じ美しい黄緑に、数束の赤いメッシュが入っている。
 くりくりした目が可愛らしい顔立ちは、人間で言えば十五、六歳といったところだろう。
 もっとも、ハーピーという種族は、吸血鬼と同じように、泉から生まれた姿で一生を過ごすから、実際の年齢はわからないが。

 だいたいのハーピー女がそうであるように、彼女も小柄で華奢ながら、胸だけは豊満という身体つきをしていた。
 衣服は豊かな胸を覆う留め布と短いショートパンツのみで、褐色の瑞々しい肌は大きく露出している。
 空を飛ぶハーピーは、少しでも身体を軽くするために、極端な軽装を好むのだ。

 ただし、その少ない布地には、発光鉱石を細かく細工した高価なビーズが無数に縫い付けられていた。
 耳に揺れるピアスも首につけたチョーカーも、発光鉱石で作られた魔道具だ。革の軽装なサンダルにも、両手につけた手甲にも、細かな鉱石が光り輝いている。

 彼女が身体を動かすたびに、全身の鉱石ビーズが乱反射し、虹色の光を生み出した。
 子どもたちは、その美しい光と鮮やかな翼に見ほれ、男たちは褐色の胸元へ鼻の下を伸ばす。

 少女はすっかり慣れているらしく、集まる視線にも表情一つ変えない。
 黄色い瞳は、ただまっすぐに主の背だけを見つめていた。



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