復讐やめますか? それとも人間やめますか?-6
「レムナ……」
腕の中の小柄な軽い身体は温かくて安心できて、手放しがたい。
このままずっと、抱きしめていたくなる。彼女が愛しいのだと、錯覚しそうになる。
おずおずと、背中にレムナの手が回された。
「そ、そっか……ちょっとビックリしたけど……幸せ」
嬉しそうにほお擦りされ、呼吸が詰まりそうになる。
――やめてくれ。
一気に頭が冷えて、レムナを引き剥がす。
「悪かった。つい……どうかしてた」
「あ……」
あからさまに残念そうなレムナの視線に胸が痛み、ひどく苛立つ。
「いつも言ってるだろう。俺は、お前を愛してなんかいない。お前だって本当は、俺を愛してなんかいない。ただの刷り込みで、そう思いこんでいるだけだ」
勘違いの愛を信じる少女に、言い聞かせた。
レムナを愛しているなら、彼女を自分勝手な復讐の道具に使い、危険を冒させるなど、できるはずがない。
いくらレムナが『特別製』でも。
防御力に乏しい彼女の身を守るために、考えうる限りの魔道具で防御服をしつらえていても、だ。
今日とて、一歩間違えれば騎士たちに斬り殺されていた。
吸血鬼の巣窟まで連れまわして、命がけの戦いを一緒にさせるなど、有り得ない。
彼女は所詮、自分の復讐を遂げる武器でしかないと、ディキシスの行為が証明している。
そしてレムナにしても、ディキシスを盲愛するのは、目を開いて最初に見たのが彼という刷り込みの理由だけだ。
「うん……それでもわたし、幸せなの。ディキシスを困らせて、ごめんね」
悲しそうに微笑まれ、衝動的に彼女を押し倒していた。
「じゃぁ、お前を愛していない男にこうされても、嬉しいのか」
「……ディキシスだったら」
「っ!」
塞いだ唇を舌でこじ開け、穏やかで甘い求愛給餌とはほど遠い、荒々しい口付けを貪る。
無数の鉱石ビーズが光る魔道具の衣服を脱がせ、褐色の肌へも口付けていく。
レムナはどうされるのが好きか、どうすればあっという間に達してしまうか、とうに知り尽くしていた。
愛撫に甘い鳴き声をあげる少女を抱えあげ、膝にのせて後ろから抱きしめる。触れる前からすっかり蕩けていた熱い秘所に指を差し込み、ぬかるみをかき混ぜた。
「あっ」
もう片手で胸の突起も嬲ると、胎内の指がきつく締め付けられた。レムナは目を瞑って眉根をよせ、快楽に耐えるように身体を強張らせている。
「イっちまえ」
耳たぶを噛みながら囁く。
淫猥な音を立てて狭い孔の奥まで指を押し込むと、ビクビクと褐色の裸身が跳ねた。
「あ、あ……」
「満足したか?」
汗ばんだ額に軽く口づけを落とすと、荒い息を吐くレムナが、薄っすらと潤んだ瞳を開けた。
しなやかな褐色の手足が絡みつき、引き寄せられる。
「ディキシス……もっと……」
甘い声音に、理性が砕けていく。
彼女へのご褒美に楽しませるだけならともかく、愛していないと断言しておいて抱くのは、いつだって罪悪感ばかりで後悔してしまうのに。
擦りついてくる身体を剥がすこともできず、必死で呟いた。
「……俺は、お前を武器として利用してるんだ」
「うん。武器なら、ディキシスがどんな危険な場所に行っても、ずっと一緒だよね……それって最高。嬉しすぎるよ」
心底から嬉しそうに言うレムナを、たまらずに抱きしめ返した。
「この、鳥頭が……っ」
――だから、ハーピーは愚かでイカレていると、バカにされるんだ。
刷り込みだけの盲愛に捕われないで、もう少しまともに目を開いて、ちゃんと頭を使って考えようとしないのか。
世の中には、ディキシスより性格や人生観のずっとマシな男が、ゴロゴロしている。
レムナのように献身的な美少女から尽くされれば、それなりの幸せと愛をきちんと返す男が、きっといるはずだ。
ディキシスに、それはできない。
レムナの愛を利用して搾取し、せいぜいこうして表面だけの快楽を与えてやるくらいだ。
互いに荒い息を吐き、身体をつなげる。
組み敷いた身体は華奢で細く、ディキシスを包む蜜道も狭くてギチギチと食い詰めてくる。
いつも壊してしまわないかと不安になるほどだ。
レムナの背中へ回した手で、肩甲骨に近い翼の出てくる部分を摩ってやると、一際甘い声をあげて褐色の身体が仰け反った。
「相変わらず、ここ弱いな」
小さなコリコリした翼の元を指先で嬲ると、たまらないといった様にレムナが身をくねらせる。
「だ、だって、あ……あ、んんんっ!」
隙間なく重なり、何度も唇を合わせながら、心は重なるはずもない。抱いて気持ちよければ、それだけ罪悪感が増していく。