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鳥飼いの復讐者
【ファンタジー 官能小説】

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復讐やめますか? それとも人間やめますか?-7

 やがて精を注ぎ込み、濡らしたタオルでクタリとしてしまったレムナの身体を拭い終わると、急激な疲労感を覚えた。
 昼間からあれだけ動いていたら当然だろう。
 自分の身体も手早く拭き、ディキシスはレムナの隣へ横たわる。規則正しい寝息が心地良く、重い瞼が自然と落ちてくる。

 懐かしい姉の顔が、瞼の裏に垣間見えた気がした。


 あれからもう十二年。
 ディキシスは二十七歳になり、記憶の中の姉は二十五歳で止まったままだ。



 ****

 ――あの日……十二年前の供物の夜に、ディキシスは供物の財宝を運ぶ馬車に忍び込み、黒い森に行ったのだ。

 あの救済札は、まぎれもなく姉のもので、生贄になるべきはディキシスだ。
 姉を助け出すか、自分が代わりになろうと思った。

 だが、十五歳のディキシスは、無力で無謀なだけのガキで、あっさりと吸血鬼たちに捕まってしまった。
 事情を訴えても彼らはあざ笑い、生贄の追加が増えたと喜んだ。
 なす術もなく、姉が犯されながら血を吸われ、死んでいくのを見せつけられた。

 そしてディキシスも喰われそうになった時、一人の女吸血鬼が姿を現したのだ。

『キルラクルシュ……』

 彼女が現れた途端、浮かれ騒いでいた吸血鬼たちが凍りつき、畏怖を篭めてその名を呼んだ。

 初めて目にした伝説の女吸血鬼は、思っていたよりもずっと小柄で華奢な少女だった。
 恐ろしい妙齢の美女を想像していたのに、話に聞いていたような黒装束の武装ではなく、粗末な貫頭衣の黒いローブと室内スリッパを履き、仮面すらもつけていなかった。

 恐怖に気絶寸前だったディキシスも、驚きに目を見開いて、自分と大して年端の変わらないような彼女の容姿をみつめた。
 長い闇色の髪は濡れたようにつや光り、その下にはあらゆる感情がすっぽりと欠け抜けている秀麗な顔だちがあった。

 赤い胡乱な瞳が仲間たちを見渡すと、吸血鬼たちはいっせいに口を閉じ、周囲の空気は凍りつくほど冷ややかになった。

 ふと気づけば、ディキシスを捕らえる吸血鬼も、彼女へ気を逸らしていた。
 その隙にツル草で縛られたまま逃げ出し、我に返った吸血鬼たちに追われた末に、吸血鬼たちを産みだす赤い泉へに落ちたのだ……。


 ……赤い泉の水は粘つき、全身を溶かしていくようにビリビリと痛んだ。苦しさに喘いだ口の中も溶かされ、内臓も溶けていく。

 ほどなく意識を失ったが、目覚めたディキシスはとても奇妙な場所に寝かされていた。 
 広い部屋の壁は、全てが発光鉱石を生む木で覆われていた。各所には拳ほどの鉱石が金具でとりつけられ、赤や緑や青の光を放っている。
 寝かされていたベッドは、肌触りのいいシーツや柔らかいマットレスまでも全て、見たことのない不思議な素材でできていた。

 部屋には白衣をきた中年の男が一人いて、ここは泉の底だと静かに告げた。
 ディキシスは全身の皮膚を溶かされて落ちてきたが、まだかすかに息があったため、治療をしたというのだ。
 白い病衣のようなものを着せられた身体をみれば、もう肌には傷一つなく、幼い頃についた古傷の痕さえも消えていた。


 ディキシスは泉に落ちた経緯を男に話し、もしここが本当に泉の底ならば、吸血鬼たちの泉を壊してくれと頼んだ。

 姉を殺した奴らを許せない。
 泉を枯らし、奴らを根絶やしにして復讐できるのなら、なんでもすると懇願した。

 だが、男は静かに首を振り、泉は壊せないと拒絶した。

『私は番人。泉を守ること、それが私の役割だ』

 そして番人は、うな垂れたディキシスへ、こう続けた。

『……しかし、貧相な人間の少年がどこまで頑強になれるのかは、とても興味深い。よって、わたしは君に尋ねる』

 男のしゃべり方はとても奇妙で、声は普通の人間のはずなのに、どこか金属のような硬さを帯びていた。


『君は、人間を止めるか、復讐を止めるか。どちらを選ぶ?』






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