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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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全裸、ダメ、絶対-1

 

 ―― アーウェンは、女の裸が嫌い。

 ラクシュの頭には、そうしっかりと刻み込まれている。
 彼と出会った数日後、一緒に水浴びをしようとしたら、ものすごく嫌がられたからだ。
 その後すぐ、ラクシュ自身を嫌いではないと告げるように、おずおずと謝ってきたから、単に女の裸が嫌いなのだと解釈した。
 半月前に肌を重ねた時も、ラクシュのローブは脱がせずに、下着を破いただけだったから、なお確信した。

『女性を抱くのは大丈夫でも、裸は絶対に見たくないのだ』と。

 ……実のところ、アーウェンは興奮しすぎて、そこまで余裕がなかっただけだったのだが。
 ラクシュがそんなことに気づくはずもない。

 だから、眠ってしまった自分を寝巻きに着替えさせてくれたが、かなり嫌な作業だったのではないかと思った。

 ―― 何か、お礼がしたいなぁ。

 そう思い、アーウェンに何がいいか聞こうかと思ったら、台所でクルミを擦ってペーストにしていた彼は、ラクシュが背後にいるのに気づかず、
『ラクシュさんと、もっと恋人らしくなりたい……』と、ため息混じりに独り言を呟いた。

 ラクシュは無言で頷き、そのままスルスルと台所を出て行った。
 気配を消すのは昔から得意だったし、血を飲んでからは、また身体が思い通りに動くようになった。

 自室兼工房に戻り、ラクシュは魔道具つくりを再開した。爪の先をノミのように鋭く変化させ、鉱石に魔法文字を刻んでいく。
 日の当たらない部屋はいつでも薄暗いが、今はもう夜空に月がとっくに昇っている時刻だ。
 部屋にはいくつもの木箱が置かれ、出来上がった魔道具や材料が雑然と置かれていた。
 灯りはなく、魔道具にする発光鉱石が、部屋のそこかしこで、緑や赤の光を薄ぼんやりと発しているだけだ。
 しかし、ラクシュの眼にはこれくらいがちょうど心地いい。

 ―― アーウェンと私、恋人になったのかな?

 個人差はあるが、他の種族は吸血鬼ほど多数の相手と性快楽を得たがらず、特定の相手を好む者が多いと知っていた。そういう相手を『恋人』と呼ぶらしい。
 ラクシュは異質のせいか、そうやたら発情しない。でも、アーウェンは特別に大好きだと思うし、肌を重ねた時は気持ちいい以上に、すごく幸せだった。
 こういう相手を、恋人というのだろうか?
 そして、とても大きな疑問がある。

 ―― 恋人らしいって、どういうことをするのだろう? 

 カリカリと鉱石を引っかきながら、一生懸命に街の様子を思い出してみた。人間や他の魔物が賑やかに暮らす街では、仲のよさそうな男女を時おり見かけた。
 そして何年か前に、鈴猫屋の店主から、恋人は外で食事をしたり、特に目的もなく出かけたりすると聞いたのを、思い出した。

 ―― 外で、ゴハン……。

 外食は大嫌いだ。
 お店で食べるくらいなら、道端の雑草でもモグモグやったほうがマシで、アーウェンの作るゴハンが一番好きだ。

 ―― でも、アーウェンは、そういうのがやりたいのか……。

 だったら頑張ろうと思った。
 恋人という概念は、吸血鬼のラクシュには今ひとつ理解しきれなかったけれど、アーウェンは大好きだ。




 ラクシュが決死のおでかけを決意したのは、こういうわけだった。




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