残酷な優しさ-6
人間、頭が真っ白になると身体まで固まってしまうもので、あたしもその例に漏れずにそんな反応をしていた。
ただ、瞳を少しだけ見開いたあたしに、陽介はフッと笑う。
「すげえ間抜け面。口半開きになってる」
クククと押し殺した笑いであたしを見るもんだから、さっきの言葉はジョークなのでは、と錯覚するほど。
だけど、
「まあ信じられないのも無理ねえか。でも、冗談なんかじゃねえから」
なんて、あたしの頭をグシャグシャに撫でる陽介の瞳は優しくこちらを見ていた。
……嘘だよ、そんなの。
小刻みに震えた唇。腰が抜けたみたいになったあたしは、へなへなとその場にペタリと座り込んだ。
脚がべったり床に張り付いて、気持ち悪い。
それもそのはず、あたしの身体はじっとり汗をかいていたのだ。
隠せない動揺は動悸を激しくさせ、息を弾ませる。
……嘘だ。
視界がボヤけて陽介の顔がよく見えない。
どこまで陽介はひどい男なんだろう。
好きで好きでたまらなくて、卑怯な真似をしても手に入らなかった陽介は、心が恵ちゃんに向いた今、あたしを好きだと打ち明けて、自分だけ前に進もうとして。
今でもこんなにあなたを好きだけど、あたしじゃ陽介を幸せにできないからと、やっと諦めることを決めたあたしの気持ちはどうなるの?
陽介に重い女と思われたくなくて、今まで必死に気持ちを隠していた自分に、後悔が募る。
このタイミングでそんなこと言うなんて、知らないってことはなんて残酷なんだろう。
呑気に鼻の頭をポリポリ掻きながら、言いきってスッキリしている彼の顔が、もうまともに見れずにあたしは黙って俯いていた。