一時の休息-1
マン喫の一室に辿り着き
ドリンクを一気飲みする。
「ぷはぁ〜 うまくいった」
影山の能力は沢山の人を同時に動かせる。
でも、その中で個別に動かすには限界があるのだ。
少人数を操り、切り替えて襲ってきたのだろうけど、
沢山切り替えれば、三半規管がおかしくなり気持ち悪くなるもんだ。
「ふふ、走り抜けたのは正解だったな」
マン喫でゲラゲラ笑ってしまった。
僕が影山に付けたチップは旧型専用の受信機だ。
これは一週間かけて遺伝子に受信プログラムを書き込むのだ、
受信完了すると僕の頭の中にスイッチが現れ、影山を操る事ができるようになる
新型の多人数を操るのとは違って旧型は個々に専用スイッチができるから、
スイッチが現れた途端に、影山がどこにいようが僕の思い通りになるのだ。
「とにかく一週間隠れていれば僕の勝ちだ、店のみんなの敵を取ってやる」
勝ったも同然だ。
もう一杯ドリンクを注いで部屋に戻った。
3日目の朝、
「さすがにネットも漫画もあきたなぁ〜」
コーヒーを取りにドリンクバーに向かった。
(あ、いた)
昨日からマン喫に似合わない美人がいるのだ。
僕の彼女より綺麗な人は初めてだ。
OLだろうかスーツを着ていて、ドリンクを片手に僕の横を通り過ぎる。
一瞬目が合った。
なんとなく笑った様にみえた。
「見たか?」「みたみた、すげー美人」「どの部屋だろう」
後ろの男達が彼女の噂をしている。
美人だけに、怖いお兄さんといるのが相場なので、誰も後をついていかない。
「とはいえ、手にしたドリンクは1つだったな……」
その後、彼女は見かけなかった。
次の日、
絵柄は好きじゃないけど作者は知っている程度の漫画を取ってみたものの、
納得出来ずに新しい本を探していると、
あの美人が歩いてきた。
(まだ、いたんだ、何読むんだろう)
上の方の棚を探している。横顔は美しい。
細く小顔なので身長が高く見えるけど、隣に立たれると意外に小さかった。
微かに甘い香りが漂ってきて僕は全神経を彼女に向ける。
見ている本の背表紙など頭に入らない。
「それ、面白いですか?」
何か言ってる。そう思い言葉を整理すると、僕に話しかけている事に気づいた。
「あっ え?」
焦って振り向き目があった。
黒目が大きい。
「その作者には珍しく、恋愛物ですよね」
持ってる本を見て恋愛物だと気づいた。
「これは、その、読むものが無くてとりあえず持ってただけなんですが、お譲りします」
本を差し出すと細くて白い手で受け取った
「ふふ、ありがとう」
「……いえ」笑顔が格別に良い
「そういえば滞在期間長いですよね」
「あ、うん、4日ほどかな」
「そうですよね、私も3日になります」
「そうですか」ずっと居たんだ。
彼女はページをパラパラめくって
「これ読み終わったらお部屋まで持って行きますよ、何番ですか?」
「に、21番です」
「あ、マットブースですよね。私は9番の部屋ですので近いですね」
「そうですね」
「それじゃあとで」
と言って通路を歩いて行った。
「声も綺麗だ」
呆然としていたけど、部屋が汚いのを思い出し急いで部屋に帰った。
「本当にここに来るんだろうか?」