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少女剣客琴音
【歴史物 官能小説】

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薪割り稽古-1

無角は膳を前にして酒をちびりちびりと飲んでいた。ときどき欠伸をしながら庭を見ている。庭では下人が薪を割っている。
そこへ監物が顔を出して頭を下げた。
「無角殿、ようやく娘も足が治ったと言っております。なにやら貴殿に稽古をつけて貰えると楽しみにしているようで」
「おお、そうですか。それでは早速琴音殿を呼んで頂けないでしょうか?」
やがて監物に言われて琴音が襷をかけて木刀を2本持ってやって来た。
「師匠、いよいよ稽古をつけて下さるそうで、宜しくお願い致します」
「まず、そこへ座って下され、琴音殿」
「は……しかし」
「一献酌をして下さらぬか」
「……」
「何も琴音殿を酌婦の代わりにしようとなど考えておらぬ。数日前の出来事を覚えておられようか?」
「はい」
返事をして琴音はとりあえず無角の差し出す杯に酒を満たす。
「あの戦いで最初の2人を刀を合わせずに斬ったのは実に見事だった」
「は……師匠に比べれば……師匠は刀を合わせずに3人斬りました」
「ははは……たとえ3人斬ろうと4人目は刀を合わせることになる。そなたは3人目に受け太刀をしたな」
「はい」
無角は酒を飲み干すとまた杯を差し出した。
「今度はそなたが受けてくれ」
「私は不調法で」
「真似事で良い」
琴音は仕方なく杯を受け取りそれを差し出した。無角はそこへ半分ほど注いだ。
琴音はそれを口に持って行き、唇を濡らした。無角は満足そうにそれを見てから言った。
「そなたの戦い方を見てると意識的に刀を合わせるのを避けているようじゃ。その分剣捌きが発達したようじゃが、それがそなたの弱点でもある」
「つまり……それは」
「つまり、膂力が劣るからだ」
「……」
「図星であろう。その為の稽古をこれからして貰う。わしの言う通りにするか」
「はい、師匠」
「まず、下人に代わって庭で薪を割るように。だが腕の力で割ろうとしてはならぬ。全身の力で割る。これはわしが良いと言うまで続けること。何日かかるかわからない。だが膂力を得ようとすれば、この稽古は欠かせない」
「は……承知致しました。早速」
琴音は下人に言って薪割りを交代することにした。しかし薪割りは始めてなのでうまくいかない。縁側から無角は声をかける。
「まず下人の薪割りをよく見て学ぶのだ。交代せよ」
「そうじゃ。足を揃えるのは良くない。足を広げることだ。腰を入れるのだ」
「斧は腕の力でなく、斧の重さで落すように」
無角は酒をちびりちびり飲みながら、そうやって声をかける。
そしてたまに近づいては体の姿勢を直す。言葉では分からないので、手で触って修正する。
「肘をこう……腰は……」
尻が出ているので引っ込めようと手を当てると琴音は睨みつける。
「師匠、そこは師匠でも触ることはできません。手を離して下さい。口で言って下さい」
「わかった。尻……腰をもうちょっと前に……違う少し戻して……違う」
「しかたありません。今だけ手を当てて直してください」
「よし……こうだ。憶えたか? 憶えないとまた触ることになる。わしは構わないが」
「師匠!」
数日すると薪割りの形もさまになって来た。すると無角は下人が割れずに横に積んでおいた節だらけの薪を指さした。
「これは通常の者でも割れぬ薪じゃ。これを全部割れるようになれば、この稽古は終わりになる。良いか? だが力任せにして体を傷めないように。
全身の力を斧の先に伝える積もりで割るがいい」
これには琴音は苦労した。既に何日も薪を割り続けて全身が痛い。だが自分にはない膂力を身につけたいが為に弱音は吐かなかった。
「いきなり真っ二つにしようとせずに、端っこを割る積りでやってみよ」
「節と真っ向から立ち向かわずに、節と節の間の隙間を狙うのじゃ」
こうして屈強な下人ですら割れなかった難物を数日かけて琴音は全て割ってしまった。
それ以来下人が割れぬ薪は琴音が割ることになったという。
 


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