さ-5
18時の5分前にエントランスで森川さんを待つ。
一応今日のインタビューは柳下さんもチェック済みだからOK。
まぁ半ページ分だし。
何か面白い話でも聞ければ、ラッキーぐらいの気持ちで行こう。
しばらく待っているとエレベーターではなく
階段から森川さんが駆け降りてきた。
日本に帰国したばかりで
時差ボケもあるだろうに。
あんなに駆けて。よっぽどの事だな。
「森川さん。広報の山口です。何か急用ならそちらを優先してください」
そういうと森川さんは私の前で膝に手をついて肩で息をする。
「いや。ごめん2分遅れた」
そういいながら息を大きく吐き出すと
姿勢を正して胸ポケットから名刺入れを出して
私にスッと慣れたしぐさで名刺を差し出した。
「海外事業部の森川です。
大体は加藤から聞いてます。時間が取れなくてごめんね」
あぁ。この人が若くてそれなりのポストに着いているのは
それなりの理由があるんだ。
私みたいに年下の、しかも社内報なんて
仕事のうちじゃないようなモノのインタビューなのに
2分の遅刻のために、エレベーターじゃなくて
階段を駆け下りてきたんだ。
私は、この人の人気に納得した。
急いで私も名刺を渡す。
「広報部の山口です。今日は貴重な時間をスミマセン」
「いや。加藤が可愛い子とごはんに行かれるって言うから」
照れもせずにさらりとそんな事をいうこの人は
モテルと言う事を自覚しているんだろう。