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彼女の両手首を頭の上で1つにまとめて押さえ付けると、スポーツブラの上から彼女の柔らかい膨らみに触れる。小さいながらも、彼女の胸は敏感なようで、揉んだり爪先で掻いたりしているうちに、布地の上からでもはっきりとわかる位、乳首がその存在を強調し始める。その可愛らしい突起を、孝太郎は親指と人差し指で少し強めに摘むと、椎奈の体がびくっと跳ねる。
甘い疼きに彼女の意識が朦朧としかけたが、彼が胸を覆っていたブラを上に引き上げた途端、羞恥でまた現実に引き戻される。
中心の赤い実が、まるで孝太郎を誘っているかのようだ。小ぶりな乳房を手の平で何度も下から上に撫で摩りながら、引き寄せられるようにそこに口付けると、まるで電流が流れたかのような感覚が彼女を襲った。
「っ！」
堪らず、声を詰まらせる。
温かくざらざらとした舌が、敏感なその部分を包み込むように這い回る。感じた事のない鋭い快感が、間断なく彼女を襲う。舌先を尖らせてそれを弾いた瞬間、漏れそうになった声を抑えようと椎奈は喉を反らせるが、その白い喉はますます彼の劣情を煽るのだった。音を立ててそれを吸い上げると、椎奈は微かに喘ぎ声を漏らしてしまった。
快感と同時に湧き上がる、じわじわとした恐怖感。この感覚がずっと続いて、もし頂点に達してしまったとしたら…飽和状態になればどうなるのか。
怖い。
それに気付いた途端、彼女の心はその一点に集約された。
相手の前で弱みは見せられない、こんなの卑怯だ、ダメだ、頼むから…！
椎奈がどれだけ強く願っても、体はこの時彼女の心を一番多く占めている感情に正直だった。目の淵にはみるみるうちに雫が溜まり、それがついに零れた。頬に、一筋の跡が残る。
もう日は落ちかける寸前、薄闇が2人の姿を覆い隠していく。
涙を零した彼女の顔。不安な気持ちを滲ませた、その潤んだ瞳に見つめられた瞬間、彼の心は凍り付く。その静かな抵抗は、激しく罵られるよりも、喉元にずっと鋭い刃の切っ先を突きつけられた気分に陥った。
―――孝太郎は、静かに身を起こすと、
「賭けの約束、もういいから、早く行けよ」
椎奈から背を向けて、静かに言い捨てた。
（孝太郎……）
何か声を掛けたかった。だが、彼の背中を見ていると、何の言葉も思い浮かばず、椎奈は乱れた服を直すとやおら立ち上がり、無言でこの場を後にした。もう抵抗する気力もなく、思考力も働かず、ただ早くここから離れたい一心で、逃げるように立ち去った。
1人その場に残された彼は、途轍もない後悔の念に苛まれる。
体が欲しいわけじゃない。そう思いながらも実際は彼女の体を求めていたのだから、そんなの綺麗事だ。だからといって、体だけが手に入っても無意味で、心も伴わなければ、全く意味など成さないというのに。
余裕のない、自分の行動に苛立ち、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。きっと、軽蔑されただろう。
「くそっ、何やってんだよ…俺…」
苦虫を噛み潰したような顔で、彼は吐き棄てるようにそう呟いた。
何故、最近の自分はこうやって塞ぎこんでいる事が多いのだろう。
泣き疲れた彼女はベッドにうつ伏せて、ぼんやりとそんな風に思っていた。
いつも一緒だった、幼馴染。どちらかと言えば、ひ弱で頼りない少年の方だった彼が、いつの間に自分を組み伏せられるまでの強い力を持つようになったのだろう。
がっちりと掴まれた腕が振り解けず、今までの彼ではないような得体の知れない恐怖を感じた。何の抵抗も出来ない、無力で不甲斐無い自分にも失望したが…。
ぎゅうっと、自分自身のあるかないかもわからない程小ぶりな膨らみを手で握りしめる。そのまま、不快感に胸を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。自ら与えている胸への痛みと、胸の内に息づくしこりに、彼女は苦々しく顔を歪める。
彼とはいつまでも仲の良い友達で居続けられると思っていたのに、その均衡が崩れ始めてきた。
―――そういう対象で見られていたなんて、気持ち悪い。
初めて生理が来た時も、望んでいないのに自分の体が女へと変貌を遂げる兆しと知り、やるせない思いを抱いていた。今は、その時と似たような感覚。
彼に触れられた後、うっすらと濡れていた下着。受け入れ難い、自分の体の変化。自分の気持ちは子どものまま置いていかれたままで、周囲だけが変わっていく。
（今のままじゃ……変わらないとダメなのか…？）
答えのない自問自答は繰り返し続き、椎奈はなかなか眠れなかった。