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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−3−-1

2年生の教室が並ぶ階を、他の学年の生徒……ましてや下級生が歩いているなんてこの学校では本当に珍しい。しかも、それが抜けるような白い肌の、類まれなる美少女だとしたら、尚更目を引く。
当の本人はそんな周囲の不躾な視線など気にも留めずに、どんどんと目的の場所へと歩みを進めていく。
そっと、教室の後ろから中を見渡すが、人が多くて探している人物がなかなか見当たらない。仕方なく、一番近くにいた男子に声を掛ける。
「すみません…」
彼女の容姿に似つかわしい、鈴の音を転がすような高くて綺麗な声に、その男子生徒もつい緊張がちにその人物の名前を呼ぶ。
「草薙、お前の事呼んでる子がいる」
「は?誰」
振り向きざまに、そう答える。彼は、今日は日直で、さっきの授業の黒板を消しているところだった。
「知らねーけど、すっげぇ可愛い子」
その発言で、彼の中では何となく訪問者が誰なのか察しがついた。あの子なら、無条件で誰もが可愛いと認めるだろうし、同じ高校でそんな知り合いは自分の中に1人しかいない。黒板消しを置いて、廊下に出ると、案の定そこには予想通りの少女がいた。
「杏子、どうしたんだよ」
「あの、先輩。ちょっと、いいですか?」
杏子は、外見のイメージ通りの清楚な笑みを湛えたまま、そう言って彼を促す。どうもここで話をするには、周囲に聞き耳を立てられているようで話しづらい。孝太郎と杏子の家が隣同士で、昔から顔見知りだったなどという事は周りに知られていないので、杏子は敢えて他人行儀に接する。
2人がそこから離れた後、俄かに教室内がざわめく。彼とあの下級生の美少女の今後について、存分に興味があるようだった。
あんなに可愛い子に声を掛けられるなんて羨ましいなどといった内容の男子生徒の会話が、去り際にちらりと孝太郎の耳に入ったが、とんでもない。
杏子は後ろを一度も振り向かず、さっさと歩いていく。その後ろ姿や歩く速度から、どことなく彼女の不機嫌な様子が伝わってくるかのようだった。きっと、あの事について触れてくるに違いない。昨日の今日で一体何を言われる事か、孝太郎は内心浮き足立っていた。
人目の少ない、非常階段の近くまでくると、ようやく杏子は立ち止まった。
「何だよ、こんなとこまで連れてきて…」
「ねぇ、孝ちゃん。時間ないから単刀直入に聞くけど、お姉ちゃんに何かした?」
振り向きざまに、杏子はそう強い口調で切り出した。彼女の外見や今までの雰囲気からは想像し得ないほど、鋭い目付きで彼を睥睨する。
そんな杏子の豹変した態度に、表情には出さないが孝太郎は軽く嘆息する。予想通りとはいえ、やはりそれを突っ込んでくるか。
「何もねえよ」
正直に言えるはずもなく、彼は常套句のようにそう答えた。
「嘘。絶対孝ちゃんが絡んでる。……お姉ちゃん泣いてたもん」
杏子は、ますます厳しい表情で孝太郎を見据える。
彼女達姉妹と彼は、もう生まれた時から隣同士に住んでいる幼馴染で、勿論杏子も孝太郎との付き合いは長い。鈍い、というより恋愛事に関心の低い姉は気付いていないだろうが、彼が姉に対してどのような思いを抱いているのか、妹の彼女は前々から薄々勘付いていた。
そんな彼に、これを言うともしかしたら喜ばせてしまいそうで癪だから決して言わないが、今まで姉が一晩部屋にこもりっきりで泣いている時は、大体彼が関わっている。例えば、この前の柔道部の部長の座を賭けての試合の時もそうだった。幼い頃から、彼との勝負に負けた、ケンカに負けただの、その度に隠れて悔し涙を流していた姉だった。
姉は自分で気づいていないながらも、彼に対してだけとりわけ強い執着心を持っている。しかし、今回の場合は普段と様子が違った。
元が前向きで快活な性格の彼女は、一晩も経てば立ち直って、いつもの元気な笑顔を家族に見せてくれていた。心の深い部分で傷は癒えていなかったとしても、心配させないように明るく振舞う、そんな気遣いをしていた。
なのに、今朝の姉はまだ少し沈んだ表情を隠さなかった。その姿を見た杏子は、まるで自分の事のように胸が痛んだ。そんな余裕も奪ってしまう程、姉を憔悴させた出来事とは一体何だったのか。
椎奈は杏子を心配させないように、また頼りがいのある姉として居続けるために、決して彼女の前で弱音を吐いたり、相談したりしてくる事はなかった。それが少し淋しくもあるのだが、姉が何も話してくれないからといって、そのままほうってなんておけない。何かある度、杏子は自分なりに探りを入れていた。
そして今回の場合、とりあえず、最初に思い浮かんだ人物の孝太郎を問い詰めようと、こうして対峙しているのだった。
―――杏子は、ある時期から孝太郎が苦手になった。
それは、幼い頃に本能的に察した事なのか、姉の一番はずっと自分であっていたいのに、彼が自分の大好きな姉を攫ってしまいそうな予感がしていたから。

「泣いてたのか…?」
その発言に、孝太郎は少し狼狽した。今まで、椎奈は自分の前では決して涙を見せた事などなかったからだ。
だが、それは昨日までの話。
彼女の眦から零れた一滴の涙…そのヴィジョンが鮮明に思い出される。
あれから、また泣かせてしまったのか…?


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