電器屋にて〜冴香〜-1
ふと、マッサージチェアコーナーが目に飛び込んできた。
一度、試してはみたいが…ぐったりと横たわる、恐らく購入予定はないであろうサラリーマンたちを見ると、あの中に混ざりたくはない、と思った。
しかし、値段は見てみたい、という好奇心を抑えきれずに近付いてみた。
適当に選んでみたものの値段は、冴香の月給ほどした。
到底手が届かない、というものではないが、そこまで出しても欲しい、というわけではない。他のものも見ると、そちらは給料2ヶ月分。なおさらこれはありえない。
立ち去ろうとしたその時
「何かお探しですか?」
と、背後から店員に声をかけられてしまった。
「あ、いえ…いくらくらいするかな、と思って。お高いんですね。私には無理そうです」
じゃあ、とその場を立ち去ろうとする。
「大きさもございますしねぇ。でも、せっかくですしどうぞお試しください」
とん、と肩を軽く押されると、まるでマッサージチェアに吸い込まれるように座り込んでしまった。慌てるが、すぐに店員が跪いて操作を始めたため、観念する。もともと興味はあったのだ、逃げる必要もない。
間も無く、マッサージが開始された。
「このまましばらくお待ちくださいね」
にこやかに言い残して、店員が立ち去る。説明でもされるのかと思ったが、結局他のサラリーマンたちと同じになってしまった。
多少居心地の悪さも感じたが、さすが最新式のマッサージチェア。すぐにそちらの心地よさの方が勝った。
ゆったりと腰や肩の凝りをほぐされていると、さっきの店員が戻ってきた。
「いかがですか?」
「あ、はい。気持ちいいですね」
素直に微笑みがこぼれた。店員もにこにこと笑って頷く。
「よかったです。…まあ、こちらはなかなか購入するのに決意が必要でしょうが、こういったお手軽なものもございますよ。こちらもお試しください」
そう言って店員が差し出したのは、ハンディマッサージャー。俗に言う『電マ』というやつだ。
冴香も、元カレに見せられたAVで見たことがある。
「はぁ…」
確かにこれは元来凝りをほぐすためのものであるはず。そういう用途に使われることも知っていると思われるのは恥ずかしい。そう思い、曖昧な返事をした。
「これはですね、こうして振動で凝りをほぐすものでして…」
店員は、気にすることなく説明を始め、スイッチを入れると冴香の肩に押し当ててくる。…正直、今座っているものと比べると単調に震えるだけで到底比較対象にもならない。