いい女でいさせて-1
悪い予感に限って的中するのはなぜだろう。
ついこないだ一緒にお茶をした時の、恵ちゃんの自信なさげな話し方が、微かに聞こえてくる。
「よ、陽介……。あたし、もう一度陽介と話し合いたくて……」
震えたその声が陽介に媚びているみたいで、舌打ちが出てくる。
噛み締めていた奥歯にさらに力を込めると、ミシッと歯が軋むような音が頭の中に響いた。
別れたくせになんで今さらと言う怒りと、陽介の心をさらわれてしまうのではと言う不安と。
心中穏やかでいられない状態であたしはジッと二人の様子に耳を傾けていた。
「メグ……俺はもう……」
「お願い、陽介。あたし、陽介を信じてなかったわけじゃない。会えなくて寂しさが爆発しちゃっただけなの。
あの娘にはずいぶんひどいこと言ってしまったし、陽介にも迷惑かけたことは、ホントに申し訳ないって思ってる。あたし、あの娘にも必ず謝る。
それに、もう陽介がウザがるようなやきもちも妬かない。だから、もう一度チャンスを下さい……! 」
「…………」
切羽詰まるような恵ちゃんの言葉に、あたしの心臓はバクバク跳ねる。
チャンスを欲しいのはあたしだって同じ。
想いを伝えたいのはあなたよりもずっとずっと前からなの。
音を立てないように、そっと身体を移動したあたしは、ドアの影に身を潜めて様子を伺った。
目の前のドアは、大きな磨りガラスが埋め込まれていて見えない作りになっているけど、枠から2センチほどを囲んだ部分は透明のガラスになっているので、そこから玄関を覗くことができる。
目に飛び込んでくるのは、泣き出しそうな恵ちゃんの顔。
愛されたいとすがるようなその大きな瞳で、見つめられた陽介はどんな顔をしているのだろうか。
「あたし、今でも陽介が好きなの。あなたがいない日々なんて、もう考えられない……」
「メグ……」
今まで俯いていた陽介の顔が真っ直ぐ彼女を見つめたかと思うと、彼はハンドルレバーを掴んでいた手を離し、恵ちゃんの頬に触れた。
息を飲み込んだあたしは、口を手で押さえたまま固まってしまった。
脳内に甦る、さっきの陽介の言葉。
……俺、やっぱりメグが好きなんだ。
陽介にそっと頬を撫でられている恵ちゃんに、激しい嫉妬の炎が燃えさかる。
――憎い。
陽介に触れられている恵ちゃんが、憎い。
素直に自分の気持ちを伝えられる恵ちゃんが、憎い。