いい女でいさせて-6
◇
どれくらい時間が経っただろう。
口のつけられていないアイスコーヒーのグラスは、氷が溶けきって色が薄くなって、表面についていた水滴もいつの間にかテーブルに水溜まりを作っていた。
恵ちゃんが帰って、残された空間はまるでお通夜みたいに静まり返っていた。
彼女に切り捨てられた陽介は、それっきり上の空で、フローリングに座って煙草を吸ってばかり。
山盛りになっていく吸殻と、ボンヤリした陽介を、あたしはただ黙って突っ立って見つめていた。
何と言えばいいのか、ただ強張って動かない唇。
頭の中では、最後に見せた恵ちゃんの涙と、他の男の名前が出てきて焦る陽介の横顔がグルグル巡っていた。
恵ちゃんを引き離し、望んだ展開になったはずなのにあたしの心は晴れない。
いつもあたしに笑いかけてくれた陽介の、初めて見る沈んだ顔に、罪悪感がチクチク胸を痛くさせていた。
「陽介……お風呂入ってきたら……?」
なんとか意を決して話すけど、聞こえないのか、また煙草を吸ってはため息と共に吐き出される煙。
それが目にしみてジワッと涙が滲む。
「陽介……」
それでも、陽介はボンヤリ煙草の煙を眺めるだけだった。
滲んだ涙がポツ、と足の甲に落ちる。
同時に、なぜか笑いも込み上げてきた。
陽介にあたしの声が届かないことなんて、わかりきっていたことじゃないか。
――陽介にとってあたしは、最初から声を聞く必要なんてない、身体だけの存在だったから。