いい女でいさせて-3
「あ、恵ちゃん」
水色のパイル地の半袖パーカーとお揃いのショートパンツに身を包んだあたしを、目線だけを上下に動かして見ている。
陽介も白いタンクトップに淡いグレーのスウェットのハーフパンツという完全なる部屋着だし、今にも涙が溢れそうな彼女の頭の中は、あたし達のどんな様子を想像しているのだろうか。
震える手をグッと握りしめ、ギリッと奥歯を噛んでいる恵ちゃん。
彼女が動揺すればするほど、あたしに余裕ができる。
「ああ、もしかして忘れ物取りに来た? 別れたって聞いたから」
ニッコリ笑って、陽介の腕に自分のそれをごく自然に絡ませると、恵ちゃんの息を飲む音が聞こえた。
陽介は相変わらず俯いたまま動けないみたい。
たとえあたしの手を振り払って弁解したって、二人して部屋着を着て一緒にいるこの状況を目の当たりにして、恵ちゃんに信じてもらえるわけがないし。
身体を小刻みに震わせているその小さな身体に、あたしはさらに追い討ちをかけた。
「恵ちゃん、荷物はあとであたしがまとめて送ってあげるから。陽介は疲れているから、今日の所はお引き取り願える? 陽介のことはあたしに任して」
そして陽介に、「お風呂沸いてるから」と、“恵ちゃんに聞こえるように”ひそひそ耳打ち。
ひどいことしてるのは百も承知だ。
だけど、別れたのならもう邪魔なんてされたくない。
ずっとずっと陽介を好きで、彼のためならと日陰の存在で耐えていたあたしと、些細なすれ違いで関係が壊れるような恵ちゃんとじゃ、その重みが違うのよ。
だから、今度こそ、あたしは陽介に想いを伝えるんだ。