う-6
「山口真樹です。広報部です。26歳です。金子さんは?」
嫌味っぽく自己紹介から初めて見る。
「29。山口さん、よく存じてますよ」
この前も私たちの名前を知ってた・・・よね?
「なんでって顔してる。広報の山口さん。有名だよ。
海外の長谷川さんと同期で二人とも'11年入社の華だよね」
「・・・・」
「広報なのに、自分たちの噂を知らないんだ?」
面白そうに頬杖をつきながら私をじっと見つめる。
「商品開発だって開発だけしてるわけじゃないんだよ」
山梨なのに本社の人をここまで詳しく知ってる?
「俺ね。入社以来、毎週横浜に来てんの。
こっちのうわさも耳にするよ」
私が知ってる開発の人とはちょっと違う。
いたずらをしそうな笑いにこっちも楽しくなる。
しばらく話した後、
「ここを抜け出して、二人で飲み直そう」
とテーブルの下で手を握られた。
「ちょっと!」
金子さんは握っている手を離して、私の腿をゆっくりと撫でた。
「調子に乗らないでよ!」
と抵抗するけど
そのやわらかいタッチに本気で拒否できない気持ちよさがある。
「行こうか」
再び手を握り、そのまま静かに椅子から立ち上がった。
私は遅れないようにカバンを急いで持ちあげる。
そんな私たちを他の4人が笑い話に笑ったまま見上げた。
「俺たち抜けるわ」
ここまではっきり言わなくたって!
その言葉にすみれがにやりと笑いかける。
もう・・・
「じゃ、また来週な」
そう言ってつないでいる方の手を高く上げて
残りのメンバーに挨拶した。
わざわざ手をつないでるって見せつけなくてもいいのに。
目の端ですみれが笑いながら小さく手を振っているのをとらえた。