〈恥虐の花嫁・銭森春奈〉-3
『もう泣いちゃうの?まだ美津紀ちゃんと瑠璃子お姉さんは此処に居るのに、助けなくてイイのぉ?』
悪魔の如きタムルが春奈の傍にしゃがむと、戦意の喪失しかかった心を更に追い詰めに掛かった。
その掌は春奈の頬をペチペチと叩き、怒りの炎を再び燃やせと囃している。
『本当に妹想いなお姉さんだったわ?必死に「瑠璃子を助けて!」なんて叫んじゃってさ……私も可哀想になったくらいに……ね?』
タムルは涙のつたう頬を平手で叩きながら、クスクスと笑った。
麻里子が最後まで気に掛けていた妹を、これから虐められる悦びを抑えられない様子だ。
『あんまり「瑠璃子」「瑠璃子」って煩いからさ、足だけ吊って床に手を突かせてやったの……ウフッ……それで鼻穴に鉤を引っ掛けて顔を吊り上げてさあ……『貴女は何?』って聞いたら「私は牝豚ですぅ」ですって!可笑しくて笑っちゃわない?』
「やめて…やめてよ……」
春奈が知っているのは、美津紀と麻里子が互いの目の前で姦され、美津紀の頭がおかしくなった事だけ。
鉄パイプに吊るされ、苛烈な暴力に曝された詳細までは聞かされていなかった。
『鼻の穴がビローンって伸びちゃってぇ、あの綺麗で格好良い顔が完全に豚になってたわよぉ?フフフ……あんまり不細工な顔だったから私ムカついちゃって、何回も豚顔をひっぱたいて「私は牝豚です!」って叫ばせてるうちに、本当に牝豚になっちゃったの。ウフフッ……言葉の思い込みって怖いわねえ?』
「嫌あぁぁぁッ!!!」
ついに春奈は大声で泣き叫び、ボロボロと涙を溢した。
あのモニターで観た麻里子の醜態は、この男の凌辱に曝された果ての姿だったのだ……羞恥心すら失い、性の快楽を貪るだけの“人間”に変わるまで、麻里子は姦され続けていたのだ……こんな残虐な性犯罪を春奈は知らない……想像などしたくも無かった姉妹の生き地獄を、春奈は知らないままでいたのだ……。
『貴女もこのままじゃ悔しくて家畜にもなれないでしょ?最後のチャンスをあげるわ……』
タムルは春奈の縄を全て解き、絡み付く鉄パイプを引き抜いた。
ガランガランと床に鉄パイプが跳ね、タムルはゆっくりと立ち上がる……手錠だけの春奈と、一度だけ戦ってやるつもりだ。
「私達を………どこまでも……馬鹿にして……ッ!!」
春奈は床に転がる鉄パイプを掴み、フラフラと立ち上がった。
余裕綽々なサロトとタムルを他所に、専務だけが少し強張った表情で部屋の隅へと避難した。