言えなかった「好き」-1
ゆっくり身体を起こしたあたしは、陽介の背中に触れようとする。
身体だけの割り切った関係、それだけでよかったのに、それすら叶わなくなったなんて。
あと数センチで届くと言うのに、陽介が遠い。
背中に触れようとしている手がプルプルと震えると共に、あたしの目からさらに大粒の涙がポタポタと太ももの上に落ちた。
「な、何で……? 恵ちゃんと別れたんなら別にいいじゃん……」
「ごめん、くるみ。ダメなんだ」
「どうしてよっ!」
荒げる声を陽介の背中にぶつける。
陽介の帰る場所はあたしのはずなのに、あの娘が絡んでくるとこうも陽介はおかしくなるなんて、納得いかない。
込み上げてくる苛立ちをぶつけるように、何度も背中をドンドン叩いていると、ようやく彼はあたしの方を振り返って、あたしの手首をグッと掴んだ。
「くるみ!」
怒りに任せて叩きつけていたから、陽介は怒っているのかもしれない。
強い口調で名前を呼ばれると、反射的に目をギュッと閉じて陽介から顔を背けた。
でも、次に待っていたのは怒号なんかじゃなかった。
陽介は泣きわめくあたしの手首をしっかり掴んで、真っ正面から向き合おうとしていて、恐る恐る目を開けると、そこには寂しそうに笑う顔があって。
「……俺、やっぱりメグが好きなんだ」
怒号なんかより遥かにあたしを傷つける言葉を、陽介は悲しげな笑顔と共に、あたしに向けた。
陽介の掴んでいる手がフッと緩んで、あたしの手は力なく落ちる。
心のどこかではわかっていた。
でも、陽介の口から聞くまでは見ないようにしていた現実も、目の前に叩きつけられると、ただ無気力な身体に涙だけが流れてくる。
静まり返った部屋で、あたしの嗚咽と掛け時計の秒針の音だけが、やけに耳を痛くさせた。