LADY GUNを手にする日-2
稽古は大抵夜22時頃まで続く。そして石山はいつも若菜を家まで送り届ける。いつものように車に若菜を乗せ運転する石山。言いたくても言えなかった事を言えて気持ちが楽になった。
「しかし本当にいい女になったな、上原は。」
「化粧のおかげですよ。お母さんがみすぼらしいから化粧しろって煩いから。」
「でもお前もともと可愛い顔してるだろ?化粧だけのおかげじゃないよ。前は可愛いだけだったが、スリムになって女らしさが加わってすっかり美人になったよ。」
「そ、そうですか?」
「ああ。まるで…、いや何でもない…。」
言葉を飲み込んだ石山だが、若菜には分かった。
「私、先輩を目指してますから。先輩の遺品は全部頂いたんです。だから化粧品全部先輩のと同じに揃えたんです。私は間違いなく先輩に憧れてましたし、今でも憧れてますから。」
嬉しそうに笑った。
「ポッチャリ体型もすっかりスリムになって、皆川そっくりだよ。」
「ありがとうございます。」
「でも胸だけは皆川に勝ってるな!」
「石山さん、オッパイの事ばかり〜。フフフ、服も先輩のをいつも着てるんです。まだまだ似合わないかも知れないけど、いつかこれが似合う女になりますから。でもやっぱシャツにしても胸だけは何かきついんですよね。」
「…ボタンがはちきれそうだもんな…。ゴクッ…」
「あ!今、生唾飲みましたよね!?イヤラシー!」
「の、飲んでねーよ!」
むきになり前を向き運転する石山。急に真面目な顔をして言った。
「皆川は上原刑事が亡くなってから、笑わなくなったんだ。いつも何か思い詰めているような顔をしてな。以前は前の上原みたいに可愛らしく笑って、ドジして泣いて、でもすぐ笑って…。そんな子だったんだ。そんな皆川が笑顔を一切見せなくなったんだ。でもお前が入ってからだ。皆川が笑うようになったのは。安心したなぁ、皆川の笑顔を見た時は。お前が入ってくれて皆川は本当に嬉しかったんだろうな。そして今回、今度はお前が笑顔をなくしたら悲しいなと心配してたんだ。でもお前は笑う。安心したよ。お前には笑顔を忘れないで欲しい。その笑顔に救われる人間はたくさんいるんだ。約束してくれよな?」
若菜は満面の笑みを浮かべて石山に答えた。
「ハイ!」
つられて笑顔を浮かべる石山。若干照れ臭そうだった。
「あ?惚れました??」
「はっ…?ば、馬鹿か!?俺は仮にも年頃の娘を持つ父親だぞ!そんな浮ついた男じゃないわ!」
「でもオッパイ大好きじゃないですか〜。」
「オッパイは好きだ!悪いか!」
偉そうに言い放つ石山に若菜は思い切り笑わせて貰った。
「アハハハ!石山さんはオッパイ大好き〜♪」
即興ソングを歌う若菜に石山が言う。
「バカヤロ!フフフ。」
元来の若菜の無邪気な明るさが残っていた事に安心した石山。しかしその裏にある誰にも言わない蠢いた闇には到底気付く事は出来なかった。若菜が良く笑うのは、それを決して悟られない為でもあるのであった。