ジークの一番災難な日-1
他人との慣れあいなんざ、心底ウザい。
俺は昔からそう思っていたし、今も同じだ。
生きるにはメシを喰うし寝る場所も必要だから、退魔士部隊の連中や、情報屋も兼ねてる不良神父くらいとの付き合いは我慢する。
だが、隣に越して来たガキに懐かれ、いつのまにかそれに慣れちまってるなんて、信じられねぇ。
おまけに一年前の騒動から、とんだ連中が加わった。
エメリナとギルベルト、それからウリセスだ。
あれから何度か、アイツ等と偶然に顔を合わせた。それもなぜか、マルセラと一緒の時ばかり。
おかげでマルセラはすっかり、アイツ等に懐いちまった。
もちろん人狼云々の話はできないから、連中と出会った経緯は適当に誤魔化した……が、そもそも、俺は、いつからこんな日常が平気になった!? おかしいだろ!!
鏡を見りゃ、あいかわらず目つきの悪い自分が写ってる。
別人に変わったってわけでもないのによ……。
***
「お邪魔しまーす!」
猫形リュックを背負ったマルセラが、キョロキョロと俺の部屋を見渡す。
「しょっちゅう来てるんだから、今さら珍しくもないだろ」
そう言うと、マルセラが大きなくりくりした目で俺を見上げる。
「うん、でもお泊りは初めてだもん」
メチャクチャ嬉しそうに言われ、なんだか息が止まりそうになった。
「そうか……」
慌てて熱くなった顔をそらした。
隣人のガキを預かって泊まらせるなんて……昔の俺がこれを見たら、なんかの間違いだって怒鳴るだろう。
けどな、仕方ない事情がある。
マルセラの祖母さんが熱を出して、二日間の休養入院になっちまったからだ。
あの祖母さんは、あんまり身体が丈夫じゃないらしい。
まぁ、意外と根性ある人だから、そんなに嫌いじゃねぇ。たまに、俺の分までメシ作ったと呼ばれるしな。しかも美味い。
それに去年、俺がギルベルトに負けて入院してる時に、マルセラは殆ど毎日、なんのかんのと来てくれた。
それが鬱陶しいと思……わなかったんだ。チクショウ!
ウサギ型に切ったリンゴなんか初めて見た。都市伝説だと思ってたぜ。くそっ! 実は一度喰ってみたいものリスト一位だったよ! すげぇ美味かったよ!
……そういうわけで、借りを返さなくちゃならねぇ。納得したか? 昔の俺!