深夜０時-1
4月某日深夜0時過ぎ。
今年で入社4年目となった渚小梅（なぎさこうめ）は、ただ一人オフィスに残っていた。
なぜ彼女が新年度早々残業に追われているのかといえば、理由は簡単で。今年入った新米がたいそうやらかしたのである。
その仕事は最初の計算を間違えればその後も全ての計算がズレてしまうもので、そのミスに気付いたのは小梅が彼女自身の仕事を終えオフィスを後にしようとした直前。
金曜日の今日は新入社員の歓迎会がオフィス近くの居酒屋にて執り行われるため、ミスをおかした新米は既に仕事を終え、先に上司と居酒屋へ向かっていた。
小梅も上司や新米達と共にオフィスを出たかったが、どうしても仕事が残っていたので仕方なく後から行く事にしたのである。
遅れて行くのであればいつ行っても大差ないと考えた小梅は、彼女の担当している新入社員・高橋征嗣（たかはしせいじ）の作成した資料のチェックをしようと思い立つ。
高橋は新入社員の中でも特にデキる奴で、見た目も理知的で期待の新人である。そんな彼がまさかこんなミスをおかしているなど思いもしない小梅は、資料のチェックを後回しにしていた。
するとどうだろう、この有様だ。
チェックをし始めて早々にミスに気付いた小梅は、その一つのミスがもたらした壮大な悪影響に顔面蒼白。しかし驚いている暇はない。只今20時13分を回ったところ。高橋が一日がかりで終えたこの仕事のほとんどを今日中に修正するなど無理に等しい。
しかも、この資料は明日の昼に執り行われる会議に必要なものである。相手先の都合上、どうしても土曜日となってしまったのである。
そんな大切な資料をデキる後輩なら大丈夫だろうとたかをくくり、チェックをおざなりにしていた私にも責任はある。デキる後輩といってもまだ入社して一ヶ月もたってないのだ。ミスがない方がおかしいのではないか。
今頃、上司にも既に気に入られている高橋は課長の隣で楽しく食事をしているだろう。まさか自分がこんなミスをしていたとは思わずに。そんな後輩に少し腹は立つが、せっかくの新入社員歓迎会である。高橋も既に酒を飲んでいるであろう。
それ以上に小梅はわざわざ高橋に電話をしてオフィスに戻らせるなど、鬼のような事はしたくなかった。彼女も3年前新入社員歓迎会を体験した事があるがそれはそれは楽しかったのを覚えている。自分がもしそんな楽しい気持ちの中、オフィスに戻れ、お前は今夜徹夜だ、などと言われたら……と思ってしまうのである。
甘い考えかもしれない。これじゃ新人は育たないかもしれない。しかし、担当している後輩のミスは小梅の責任だ。
一人でミスの修正を試みようと決心した小梅は、早速仕事に取り掛かった。