それだけでよかった-8
下半身からじわりと滲んでいくように広がる快感に、歓喜の悲鳴をあげながら、あたしは彼の肩を、爪が白くなるくらい握る。
「ああっ……いいよぉ……」
「くるみ、エロいな」
自ら腰を少し浮かせて脚を開くあたしを、あなたはどう思っているのだろう。
カノジョを、恵ちゃんを抱くときも、そんな意地悪そうに笑うの?
あの娘のことを考えると、またあのアラームが脳内で鳴り響く。
いや、別れたって陽介は言ってたじゃない。
なのに、つきまとう不安にソワソワ落ち着かなくなる。
他の女の子とは違う扱いを受けていた恵ちゃん。
どうしてこの不快な音が頭から離れてくれないの――。
「陽……介……」
「ん?」
「お願い……早く……早く陽介のを挿れてぇ……! 指じゃイヤ、陽介のが欲しいのっ……」
頭を真っ白に、不安を掻き消すにはこれしかない。
陽介が抱くのは恵ちゃんじゃなくてあたしなんだって。
あたしはポロポロ涙を溢しながら、陽介の身体にしがみついて、無我夢中でそう叫んでいた。
……けれど。
スッと波が引くみたいに、疼きが止んだヴァギナ。
陽介の動きが止まったのだ。
今までだって、イク寸前でイカせてくれない所謂「寸止め」をされることは何度もあった。
それを繰り返されると、気が狂いそうになるくらい身体の内部が熱を持って燻って、終いには泣き叫びながら昇りつめたいと懇願してしまう。
陽介は、あたしのそんな乱れに乱れまくる姿を見るのが好きなんだとか。
だから、今回もまたそうするつもりだと思って見上げた陽介の顔。
でも、そこには以前のようなギラついたオスの顔はそこになく、逡巡と後悔と、そしてどことなく悲しみが混ざったような、なんとも言い難い表情がそこにあった。
「陽介……?」
今までにない空気を感じ取ったあたしは、ごく自然にパラリとシーツに腕を落とした。
触れていたいのに、身体が勝手にそういう反応をしたのだ。
そして、同時に身体を起こした陽介は、何も言わないままあたしに背を向ける。
「くるみ……」
脳内のアラーム音が一層大きく鳴り響く。
……イヤ、聞きたくない。
でも、あたしのそんな想いなんて知らない彼は、こちらを見ないままに、ボソリと呟いた。
「……もう、こういうの、止めよう」
――アラーム音は、まだ鳴り止まない。