スナイパー〜二匹の小鳥〜-2
キーンコーンカーンコーン。
ありきたりな終業を告げるチャイムの音を合図に、教室内にざわめきが戻る。
幸い烏丸は学校内というか、僕以外には八方美人、いや本性を見せないように通しているので男子、女子を問わず人気者になっているようだった。
「なぁ、知ってっか?吸血鬼の話」
「ああ、一組の女子が部活帰りにやられたって話しだろ?」
「噛まれた女子はまだ意識が戻ってねんだろ、恐ぇよな」
宇宙人、地底人、吸血鬼に狼男。
そんな『電波』な話は信じないけど、今この学校はその電波な話題で持ち切りだった。
遡ること……昨日、事件は烏丸が転校してきた当日に起きたらしい。
夕暮れ時、部活を終えた吹奏学部の女生徒が楽器の片付けをしていると、全身を黒マントで覆った何者かに女生徒が襲われているのを別の生徒が目撃したらしい。
生徒が近寄ると黒マントの男は窓を割り、三階から飛ぶように姿を消した。
その際に生徒は、その黒マントの男の口から長く鋭い二本の牙が生えているのを見た……ということだった。
胡散臭ぇ……。
僕は、机の上に置いていた鞄をむんずと掴むと椅子から立ち上がった。
大体にして今、僕は吸血鬼になんて構っているほど精神状態に空きがないんですよ。
烏丸で精一杯というか限界なんだから……。
「おい、帰るぞ」
歩き出そうとする僕を聞き覚えのある声が制止させた。
この忘れようとしても忘れられない低音のハスキーボイスをお持ちの方は……。
振り向いてみると、烏丸が両の手をポケットに突っ込みながらふてぶてしく僕を見つめるというか睨んでいた。
「帰るぞ……って、僕はキミとそんなに仲良くなったつもりはないんだけど」
「おばさんから、お前の事を頼むと頼まれてる」
…………はぁ?
「それが一緒に帰るのと何の関係あるっていうんだよ。僕はキミみたいに乱暴で凶器を振り回す麻薬中毒者と友達になるつもりは、これっぽっちも、な・い・の」
思いのたけを全て烏丸に一息で伝えてやった。
「勘違いするな、お前と友達になるつもりなんてない。ただ頼まれた以上依頼は遂行する、それだけだ」
…………はぁ?
依頼?
遂行?
勘違い?
どうやら烏丸は本格的に麻薬がきれはじめたらしい。
「なに突っ立ってんの三五?」
またしても場を荒らす人物が僕の名を呼ぶ。
僕は右に立つ可奈子に首だけ向けると淡々と口を開いた。
「あー、もー、見て分かんない?今、取り込み中なんだけど」
ズビシっっ!
久しぶりに延髄を気持ち良い刺激が伝い、脳を揺らしてくれた。
待てよ、叩かれて気持ち良いということは、僕はMなのか?
「あっ、そういえば烏丸君ってまだ部活決めてないの?」
可奈子は、わざとらしくポンっと掌を片手で叩きながら言った。
「うん。どこにしようか迷ってるんだ」
烏丸の猫かぶりにも慣れてきたけど、この変わりようはある意味ギネス級だとも思う。
「じゃあさ……」
可奈子が嬉しそうに微笑んだのが見えた。
「可奈子……僕って、もしかしてMなのか?」
ズビシっっっ!
昇天。