人魚の傷痕 ☆-1
その日
……とある街の高校に美しい少女が編入する。
少女の名は、磯崎香(いそざきかおり)。
そこにはかつて、太田加奈と呼ばれた少女の痕跡は無かった。
養女と言う方法で新しい“姓”を手に入れ、更には合法的に新しい“名”をも手にしていたのだ。
(藤岡留吉に乱暴された少女…… )
加害者がそう口にし脅迫した通り、世間の好奇の目に心を穢された被害者。
しかし少女は異なる“姓名”を手にし、より美しい人魚として新生する。
加奈…… いや、香は中学在学中の様に運動面の活躍は控えた。
当然であるが水泳部はおろか、運動部の類に入る事も無かった。
それはまさに、念の為であった。
美しい容姿故、注目を浴びてしまう事は仕方なかったが、必要以上に目立つ活躍は極力自身の為に控えた。
編入した高校では、その能力面を反対方向の学業面に注力した。
香にとっての新しい家族は、本来の両親母方の弟夫婦にその息子であった。
幸い“弟”はまだ一歳に満たぬ赤子の為、事実を知るのは新しい両親のみであった。