投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

LADY GUN
【推理 推理小説】

LADY  GUNの最初へ LADY  GUN 216 LADY  GUN 218 LADY  GUNの最後へ

-7

 夜明け…、それは新しい1日の始まりである。しかしこの日は希望にみちた1日の始まりとは真逆のものである。恐怖と不安に包まれた夜は悲しみと絶望の朝に姿を変える。昔ながらの港町…、しかし風情がありみんなから愛された街並みは津波により泥や瓦礫にまみれすっかり姿を変えてしまった。道路に打ち上げられた船に絶句するしかなかった。
 救援隊が生存者がいないかどうか町を回る。1人でも多くの生存者を探し出したいという切なる願望はすぐに絶望に変わる。家屋の中、道路、道路の側溝で発見される多くの死体に目を覆う人達がたくさんいた。若菜もその中の1人だ。立ち尽くす若菜の脇を全速力で走り去る翔太。
 「あ、翔太くん!危ないよ!」
若菜は慌てて翔太の後を追う。翔太は海岸方面目掛けて走って行く。すると護岸壁のすぐ脇に1台の車が見えた。翔太はその車目掛けて走っているようだった。
 (まさか…)
それが翔太の親の車である事は容易に想像出来た。とにかく翔太を追いかける若菜。しかし翔太の足は速く、先に車に到達した。
 「翔太くん!」
翔太は車の中をジッと見つめついた。遅れて到達した若菜が目にした物…、それはシートベルトがかかったまま前部座席に座り息絶えている夫婦の姿だった。
 「…!!」
若菜は心臓が止まりそうだった。いわゆる水死体だ。顔は青ざめ見ただけで冷たく冷え切っているのが分かる。海水を飲み膨れ上がった体…、全身の力が抜けそう…そんな生易しいものではなかった。
 「ダメ!翔太くん!」
若菜は翔太の正面から体ごと抱きつき視界を防ぐ。全力で走って来た為に肩を揺らして息を切らす若菜に対して、同じ様に全速力で走ってきたはずの翔太は全く息を切らしていなかった。
 「…」
翔太は全く動かない。若菜はしゃがんで翔太の顔の前に顔を寄せる。
 「翔太くん…」
無表情で若菜の目を見つめる翔太の目は全く焦点があっていないようだった。恐らく翔太の目には若菜は映っていなかっただろう。若菜にはまるでマネキンに話しかけているように感じられた。
 「…ってたよ…。」
翔太の口から微かに言葉が聞こえた。
 「えっ?なに…?」
必死で言葉を拾う若菜。
 「死んだの…知ってたよ…。生きていないの…知ってたよ…」
魂が抜けたような姿で呟く翔太。
 「翔太くん…」
心配そうな顔をする若菜。その瞬間、翔太の瞳孔がギュッと絞らたのに気付いた。翔太の焦点が若菜に合う。
 「お姉ちゃん、頑張ろうね…。」
小さな手が若菜の体をギュッと掴んだ。
 「翔太くん…」
若菜は翔太の小さな小さな体を強く抱きしめた。目の前の翔太に若菜はとてもじゃないが頑張れとは言えなかった。少しして救援隊がかけつけ2人の死体を運び出し、霊安室がわりの役場へと運び出した。表情を変えず何も喋らない翔太を若菜は放っておくことが出来なかった。動こうとしない翔太を若菜はずっと抱き締めていた。


LADY  GUNの最初へ LADY  GUN 216 LADY  GUN 218 LADY  GUNの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前