道-6
先に到着した中央署員や他署の署員が救助活動を始めていた。体育館にはたくさんの住人達が避難していた。毛布にくるまり続く余震に不安そうな表情をしている。署員達は毛布を配ったり温かい飲み物を配ったり、警察官としての仕事以外の事も進んで行った。
若菜は特に子供達に注意を配る。そんな中で隅に不安そうに小さくなっている子供が気になった。若菜は歩み寄る。
「大丈夫??」
まだ小学生低学年だろうか。表情を固めたままじっと床を見つめていた男の子に話しかけた。
「…」
何も返事がない。
「お父さんやお母さんは?」
しゃがみ込み顔を覗き込む。少年は微動だにしなかった。ますます心配になる若菜。
「名前は…?」
「横山翔太…。」
弱々しくもしっかりと名前を言った。
「翔太くんね?お父さん達とはぐれちゃったのかな??」
視線は床に落としたまま動かない。それ以上何も喋らなかった。若菜もどうしていいか分からない。
「寒いでしょ?温かい飲み物持ってきてあげるからね?」
若菜は温かいお茶を貰いに行く。その途中、救援にあたる警官に聞いてみた。
「あの子、親とはぐれちゃったみたいなんですが…。」
警官が少年を見る。そして何やら辛そうな表情を浮かべた。
「あの子は…、波にのまれた車から救出されたんです。親子3人は車の中にいて津波に流される中、親が子供を何とか車外に出したんですが、車はそのまま流されてしまい行方不明なんです。」
「えっ…?」
「家族で釣りに来ていたようです。逃げるのが遅くなったんでしょう。あの少年はたまたまライフジャケットを着ていたので海面に浮いていました。たまたま流れ着いた家屋の屋根に登りたすかったんです。でもご両親は恐らく…」
「そんな…」
口を手で覆う若菜。自然と涙が出た。
「親、子供、親戚、恋人…離れ離れになり不安になっている人がたくさんいます。可哀想だが、彼の事ばかりを見ている訳にはいかないんです。親を探してやりたいのはやまやまなんです。」
警官も辛そうだ。もしかしたら警官も家族の安否が分からない中で救援に当たっているのかも知れない。みんな不安で辛いのだ…、若菜はそう思った。温かいお茶をもらい少年の所へ戻った若菜。少年はお茶を受け取りゆっくりと口にした。
(こんな小さな子供でも泣いてないんだ。私が泣くわけにはいかない。)
お茶を飲む少年を見てそう決めた。
「翔太くん、何かあったらオネーサンを呼んでね?分かった?」
「うん…。ありがとう。」
若菜は翔太のありがとうと言った言葉に感動した。親と離れ離れになり不安で当然な中、しっかりと感謝を表した翔太に胸が熱くなる。
「がんばろうね?」
若菜は頭を撫でて翔太のもとを去った。若菜は自分が今出来る事を何でもやった。困っている人を見かければ話しかけ力になろうとした。警察官である事を忘れ、人間としてやるべき事を必死で頑張った。
気付くと朝になろうとしていた。夜明けをこんなに恐ろしく感じた事はない。朝日が被害に襲われた街を照らすのが物凄く怖く感じた。