「すき?」〜NATURAL GIRL〜-1
俺が、教職に就いて4年目の春だろうか。
副担任を経て、初めて自分で担任を持つ事ができた時に、その中に亜由がいた。
入学式が始まる前、初々しい新入生達が、緊張した顔つきで各自決められた席についていた。
その中に、初めて担任を持つ事になった俺も緊張した顔でクラスに入る。
緊張していたせいか、その席を見渡すことなく、マニュアル通りに出欠を取ったが、どうにも『藤崎亜由子』と呼んでも返事が返ってこない。クラスを見渡すと、ぽつん、と、一つだけ人が座っていない席があった。
欠席の連絡は受けていない。入学早々、サボりか?と、眉をひそめながら、そのまま出欠を取り、その場にいる子達だけ入学式へ出るよう指示をした。
初めての担任。
初めての無断欠席。
不真面目な生徒なのか、それとも体調不良かなんかでどこかで立ち往生しているかもしれない。
後者の場合、学校側としても何のアクションも取らない訳にはいかない。
とりあえず、今できる事をしよう。
そう思い、近辺の交通経路の最寄駅に連絡をしたが、該当するような子はいなかった。
生徒の家にも電話をしたが、誰も出なかった。本人も、親も入学式に出席しようとしているなら当たり前だ。
その次のアクションをどう起こせばいいのか、と考えながら、とりあえず学校近辺を探す事にした。
靴を履き、教職員用の玄関から出ると、春風がビュウッと吹いた。その風で、俺の目に砂埃が入り、目をパシパシさせると、すると、玄関前にある桜の木から花びらが大量に降ってきた。
・・・綺麗だなぁ。
一瞬、見とれてしまったが、今はそれ所ではない。
そう思って、校門を目指そうとしたとき、満開に咲く桜の木の前でボーっと立っている制服を着た女子生徒がいた。
その目は、うっとりと、魂を抜かれたように桜に魅入られているようだった。
「おーい!」
俺は声をかけた。
今日は入学式なので、在校生はいない。制服を着た女子生徒、俺の受け持ちのクラスにいなかったのも女子生徒。
ボーっと立っているのは、『藤崎亜由子』に違いない、と確信を込めた思いでそう呼びかけた。
声をかけられた少女は、魂を抜かれたまま、ゆっくり俺のほうを向いた。
「入学式は、もう始まってるぞ。」
俺のその言葉に、彼女はようやく魂が戻った。
目を、はっと見開くと、左腕にしているらしいき腕時計を見て、動揺していた。
俺は苦笑する。
「藤崎亜由子、さんですか?」
そう言うと、彼女は動揺しながら頷いた。
「担任の北沢です。欠席の連絡も無いから、ちょうど君を探しに行こうとしていたんだよ。」
そう言うと、彼女はばつの悪そうに俯きながら、「ごめんなさい」と呟いた。
「入学式だっていうのに、そんな所で何をしてたんだ?」
おれは、少し眉をひそめながらそう問いただした。
彼女は、ポツリと、
「桜があまりにも綺麗で、思わず見とれていたんです・・・・」
そう呟くようにいった。