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「すき?」
【学園物 官能小説】

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「すき?」〜NATURAL GIRL〜-2

俺は、ふーっとため息を吐くと、
「まあ、確かに綺麗だよな。」
と、同意をして見せた。
それがいけなかったらしい。
彼女は、顔をパーっと明るくさせると、
「そうですよね!私、この桜の木と雪みたいな桜吹雪に、『あ〜・・・日本人でよかった
・・・』ってしみじみ思って!」
そんな彼女の言葉を、俺は呆れながら聞いていた。
それなら、入学式をブッチしてもいいのか?こっちは、心配していたのに。
・・・こんな奴が俺の受け持ちの生徒か。
正直、変な奴、とさえ思った。
彼女も、そんな俺の気持ちを察したのか、
「ごめんなさい・・・」
と、もう一度呟いた。
俺は、傷つけたかな、と思いつつ、「いいよ、しょうがない。今から式に参加するのも目立つし、貧血で保健室にいた、

て事にしよう?」
元気付けるよう、そう励ました。
彼女の表情は、申し訳なさを浮かべ、俺はなだめるよう努力した。その頭の片隅に、


−−確かに綺麗だよな、桜。
そんな思いが浮かんだ。


それから、数カ月が経った。
すっとぼけた生徒が俺のクラスに・・・と、最初の頃は亜由が問題児になるのではと警戒していたが、うるさくもなく人のいう事もよく聞き、成績も中の中。亜由は、手のかからない、いわゆる普通の生徒だった。
俺は内心、ホッと胸をなでおろしたが、この時期、違う問題が俺を悩ませていた。
俺のクラスの生徒に、問題児はいない。イジメも無いがクラスの団結力も無かった。


そんなクラスで、文化祭の出し物決めは難航した。みんなが意見を出し合って、何をするかでモメて決まらないのではなく、それ以前に、クラスで出し物をするかしないかその時点で意見がでないのだ。うちの学校の文化祭は参加型で、必ずしも1クラスにつき1つの出し物を出さなくてもよい、という決まりが悪いのかもしれない。
クラス会議の中、教室を包む空気は、本音はそんな面倒臭いことはしたくないが、誰かが仕切ってくれるならやる、という感じだった。
最近の子は本当にドライになったな・・・
なんともいない思いが俺の胸に過よぎる。
本当は担任の俺がクラスを仕切って引っ張っていけばいいのだろうけど・・・うまく切り盛りできない自分の力の無さを痛感した。
そうこうしている間に、クラスの決議は出し物は出さない、という方向で決着が着きそうだった。
「ちょっと待ってくれよ。お前達、本当にそれでいいのか?そりゃ、確かにみんな、何かしら忙しいとは思うけど、この春やっと高校生になって。初めての文化祭に、何もクラスの思い出を作らなくていいのか?それじゃ寂しくないか?」
俺は思わずみんなに問いた。
そういうと、再度決議がとられた。
再度決議をとると、今度は一変して出し物を出す、という事になった。
その逆転された決定は、みんな俺の言葉に共感したからじゃない。担任が何かやった方がいいというから、という感じだ。
楽しむのはお前らなのに・・・今はまだ解らないだろうけど、思いでは作らないと残らない。毎日それなりに楽しく過ごすのもいいけど、そんな茫漠とした日々では、明確な確かな何かは残らないのに。でも・・・思い出を懐かしむ歳じゃないから、きっと諭しても解らないだろうな。
この時の俺は、提案もせずに諦めていた。生徒を諭す熱意よりも、自分の不甲斐なさを恥じるほうに頭が独占されていた。
文化祭で出し物を出すという方向に話が決まったが、初めからやる気の無いクラス。

今度は、何をやる?という事で話し合いが始まった。
飲食店はめんどくさい。しかも、自分たちが作ったものとなると、検便だってある。

お化け屋敷や、フリーマーケットのようなものも、下準備が大変だ。受付だってしなくちゃいけない。
そんなこんなで、1−C組の出し物は、オブジェ作りとなった。
ようやく、目標となる筋ができ話が具体化してきた。
出し物で作る物は、象をモチーフにした滑り台のようなオブジェを作る事になった。



やっと、道ができてきた。
俺としては、一つの事にクラス全体が打ち込むめんどくささ、楽しさ、そんなものひっくるめた達成感を味あわせてあげたい。押し付けにならない程度に、バックアップをしていこう。

・・・そう決意をしたのだが。
オブジェ作りの最初のメンバーはたった三人だった。佐藤博美、品川洋二、そして藤崎亜由子。
他の奴らは、やれ部活が、やれ塾が、やれ用事が。
わがクラスは、出し物決議が決まるのが遅かったせいか、文化祭まであと1週間ちょっと。
オブジェの設置に準備やら移動やらで実質1週間弱。
たった三人で、本当に期日までできるのか。正直俺は、準備初日の参加人数三人、と言う事に挫折しそうだった。
俺は不安に駆られながらも、努めてそれを隠しながら参加した三人をねぎらい、一緒にオブジェ作りに取りかかった。
はじめは、大まかな土台作り。それになる為の芯を作っていく。
しばらく一緒になって作業に取り掛かっていたが、残している仕事が気になったので、一度席を立つ事にした。
「わりぃ、ちょっと職員室戻るわ。後でまた戻ってくるけど、いい時間になったら帰りなさい。」
そう言うと、席を立つ俺に、
「はーい」
と、佐藤と品川は返事をし、俺を見送った。返事をしなかったのは、藤崎亜由子だけだった。
なんともなしにチラッと、亜由を見ると、作業に忙しいようで、俺の言った言葉など耳に入っていないようだった。

俺は、職員室で残した仕事を切りのいいトコまでやると、ふと時計を見た。
6時半か・・・
きっとみんな帰っているだろうな、と思いつつ、教室へ向かう。
そうすると、教室の方から物音がした。
「誰かいるのか?」
そう言いながら、俺は教室の扉をガラッと開けた。
そこには、身支度を整えた亜由がいた。
「あ・・・せんせ。」
亜由はビックリしたように俺を見た。
「もう来ないのかと思った。」
そう呟く亜由のそばには誰もいない。
「佐藤と品川は?」
「さっき帰りました。あたしは、キリのいいトコまでやってから帰ろうかと思って。」
そういう亜由の後ろのほうに、作りかけのオブジェを見つけた。
それを見てビックリした。土台は、もうほとんど出来上がっていて、後はちょっとした土台の微調整と、装飾するだけで完成しそうだ。俺が教室を出るまえは、ただの木材と針金と段ボールが転がっていたというのに。ほんの数時間の間にできるものなのか?
「藤崎、これ一人で作ったのか?」
俺は、驚きを隠さずに問いた。
「ぷっ。んなワケ無いじゃん。博美と、品川君とやったんですよ。」
−−後で聞いた話だが、この日は土台だけ適当な形に型どるどり、組み立ては明日にしよう、という事になり、自分の分のやった佐藤と品川は帰ったのだが、亜由が材料もそろった所だし、と一人で組み立てたて、佐藤と品川も驚かせたらしい。
「はー・・・すごいな。もう形ができてるな。藤崎って、真っ先にこういう事逃げ出すタイプかと思ってたけど、こういうの、好きなのか?」
俺は、驚きのあまり思わず本音を漏らしてしまった。この時の俺の亜由に対する印象は、目立った行動もしないが、余計な事には首を突っ込まない、自分の興味がある事にだけする現代っ子、と言うものだった。
「先生、あたしのことどう思ってるの?」
『真っ先に逃げ出すタイプ』と言うのに、気を悪くしたらしい。・・・当たり前か。

「あ、わりぃ」
俺は、ごまかすように笑いながら謝った。亜由はふくれっつらをして、ジトッと俺をにらんだ。
「こんなの好きなワケ無いじゃないですか。でも、誰もやらないし、誰かがやらなきゃ終わんないじゃん。・・・それに、この前先生が言ってたことも・・・なんか気になってたし。」
亜由は、吐き捨てるようにそう言ってそっぽを向いた。
「俺が言った事?」
俺は自分が言った言葉を思い出した。自分が何を言ったか、よく覚えてはいるが、それを聞いていた子がいた。それにビックリ・・・というか、何とも言えない思いが浮かび、思わず聞き返した。
「先生、確か・・・『何もクラスの思い出を作らなくていいのか?寂しくないか?』
みたいな事言ってましたよね?あれ、ほんとにそうだなぁ〜って思ったの。せっかく頑張って勉強してこの学校に入ったしなぁ〜って思って。・・・それに、きっとみんなも、オブジェができ始めたら手伝ってくれると思うし。」
なんでもないようなことのように、亜由は言う。
最初、厄介なヤツかも、という烙印を押していただけに正直、俺は少し感動した。
「そっか・・・。ほら、もう遅いから帰りなさい。」
俺は、感動する気持ちを隠すように亜由を帰るよう促した。
「・・・帰ろうって思ってる所を、先生に呼び止められたんですけど。」
亜由は、意地の悪い顔をして笑った。
・・・やっぱりこいつ、可愛くない。

オブジェ作りの初日は、こうして終わった。
次の日から、亜由の予測のとおり、徐々に人手は集まった。やはり、みんなも完成が近いものには手を出しやすいのだろう。完成間近になると、『ここ、紙粘土使ったほうが良くない?』『そこは、空き缶のアルミ使おうよ!』と、意見が飛び交い、一つの目標を目指して切磋琢磨するみんなの姿があった。
−−もう俺が手を出す事は無い、な。
みんなが作業する姿を見て、嬉しかった。
作業風景を見ながら、目の端で亜由を探した。彼女は、クラスメートと笑いながら絵の具のついた筆を滑らせていた。なんとなく、亜由に感謝をした。

オブジェは、余裕で期日までに完成した。
みんなで作ったオブジェは、1年棟の階段付近に飾られ、同僚の先生から、なかなか好評だった。俺も、贔屓目に見ても、なかなかのできだと思う。
・・・まあ、そのオブジェは、文化祭が開催され、在校生、来賓に散々いじられ、すぐに無残な姿に変わったのだが。
それでも俺のクラスはオブジェ作りを通して、それなりに仲間意識のようなものができ始めたようだ。

この一件で、俺は自分の中で反省点を見つけた。
担任1年目で、どうしていいかわから無かったというのは言い訳でしかない。『自分は無力だ』と嘆く事はいつでもできる。
教師が生徒にできる事。それは生徒により良い選択をできるようなナビゲーションと、嫌われ役を勝ってでるくらいクラスをまとめる先導力。
彼らは、学校へ学びに来ていると同時に、同じ思いを共有できる仲間と楽しく過ごしたいのだ。先に生きるものとしてそれを先導するのが俺の仕事だ、と再認識した。
そんな俺に、なんとなく亜由はきっかけをくれた子として写った。それから、亜由が気になるようになった。
えこ贔屓をするつもりは毛頭ないが、お気に入りの生徒、というのだろうか。目の端で亜由を追ってしまうのは、いつのまにか俺の習慣になった。

亜由は、自分の興味を持った事、関心の持った事には何事も全力で取り組む。・・・
その分、興味のない事は、とことんやる気がないようだが。
亜由は、人が困っているときに手を差し伸べる事ができる。
亜由は良く笑う。・・・俺が見かけるとき、必ずなんかしら笑ってる。

そして、見かけるたびに、彼女は輝きをましているように見えた。
入学式の、あの桜を見て見とれていた彼女は、本当に幼く、子供のようだった。無邪気と言っていい。そんな彼女が、この学校で、俺のクラスで、どんどん大人の階段を上っていく。
この過程をずっと見ていたい、な。
と、まるで父兄のような気持ちだと、我ながら苦笑していた。

そうこう思いが巡る中、1年の終業式を迎える時期になった。
初めて受け持ったクラスも、いつのまにか団結力ができていて、俺としても名残惜しいものを感じる。嬉しい寂しさだけれども。
終業式も終わり、終礼を迎えた。生徒も、「この後どこいく?」とかいいながら、
徐々に帰っていく。俺も教卓で荷物をまとめていると、亜由が俺の前に来た。
「ん?なんだ」
俺は顔を上げて亜由を見た。
「一年間、先生の生徒で楽しかったよ。」
亜由は、卒業するわけでもないのに、にっこり笑いそう言った。
「ありがとうございました。さようなら〜」
亜由はそう言うと、クラスメートと伴って、教室から出て行こうとしていた。
俺は、ただただ、その姿を見送った。
「お、おう。気をつけて帰れよ〜」
俺は、そういうのが精一杯だった。
顔が熱い。胸がドキドキするのを感じる。そんな自分に動揺して、思わず手も震える。
気づきたくない事に気づいてしまった瞬間だった。
俺に向けてくれたあの亜由の屈託のない笑顔。
俺だけのものにしたい。
そう、自覚した瞬間だった。

自分の気持ちに気づいてから、俺は苦悩の日々だ。
だって相手は、生徒だぞ?!つうか、いくつ離れてるんだ?!俺はロリコンか?!
だからといって、この想いを簡単に捨てられるのなら、それは恋ではないという事も知っ
ていた。その程度の想いならそれに越した事はないのに。しかし、亜由にこの気持ちを伝えることはできない、ないだろうな、と思った。歳以前に、立場が違い過ぎる。きっとこの思いを伝えたら、亜由は困り、戸惑い、俺を避けるようになるだろう。そんな状況になるのはごめんだ。
・・・伝えることはできないが、見守っていこう。
それが、今の俺にできる最良の行為だと思った。

そんな俺の気持ちが報われるのは、後一年先の事になる−−−


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