運命の転機-3
「う〜む。原因を探るならば、まずは初めから検証することにござろうかな。お満どの、そなた達は我が道場の外で一体何を為されていたのでござろうか?」
「そ、それは…。それは言えませぬ…」
お満は口ごもり真っ赤になった。
「それは困り申した。ならば何もわからないままでござる。お満どの、瓶之真は男の中の男でござる。その男を信じて話して下さらんか」
勘の鋭い瓶之真は、そこに『淫靡』な何かが隠されている事を見抜いた。淫靡な事を女の口から言わすのが大好きな瓶之真はお満を更に問いつめた。
「な、尚更言えませぬ。お満がそれを言えば、もうここには居られませぬ」
知り合ったばかりの男に、弟の舌使いで絶頂を迎えたことなど恥ずかしくて言えるはずも無い。お満は立ち上がって帰る素振りを見せた。
「あいや待たれい、む、無理にとは申さぬ」
瓶之真は慌てた。ここでお満に出て行かれると困る。
「ま、ま、座りなされ。それはもう聞きませぬぞ。それよりも、お満どのと竿之介どののこれからの事を一緒に考えましょうぞ」
その言葉にホッと安心したお満は、あらためて道場の床に座った。
瓶之真は兎に角お満をここに足止めをさせる方法を考える事にした。
「ふうむ『士道不覚悟』ならばお家断絶も止む無しか。どうしたものか…」
しばらく熟考していると、瓶之真にとって都合のいい考えが浮かんだ。瓶之真はそれが可能かどうかを探るために、あらためてお満に確認を求めた。
「お満どの、そなたらの恥を承知でお聞き申す。そなたの藩の名前を教えて下され」
「そ、それは…」
お満の頭に『武家の矜持』という言葉が浮かび、口が重くなった。しかし、元服前の竿之介はそんな事に頓着しなかった。
「姉上、今更藩に義理立てても状況は変わりませぬ。瓶之真様に教えて差し上げて下され」
竿之介の言葉にお満は『なるほど!』と思った。と言うよりも、難しいことを考えるのは苦手だった。『武家の矜持』の言葉の意味もよくわかっていない。なのでお満はあっさり答える事にした。
「亀立藩、藩主は裏筋実正様にございまする」
「おおおっ!それならば、それがしが手助けできるかも知れぬ」
藩名を聞いて瓶之真の顔は輝いた。
「それはどう言うことでございましょう」
瓶之真の突然の言葉に、お満と竿之介は驚いた表情を浮かべた。
「亀立藩の江戸家老、万年遊太郎は、それがしの父に師事したそれがしの弟弟子にございまする」
「なんと、万年様が瓶之真様の弟弟子!」
頭の軽いお満は、その事実を単純に喜んだ。
「な、なれど姉上、幾ら瓶之真様の弟弟子だと言うて、万年様に取りなしていただいたくらいでは…」
竿之介は冷静だった。瓶之真が間に入って済む武家社会で無い事を、聡い竿之介は理解していた。
「ははは、その通りでござる竿之介どの。それがしがただ万年遊太郎に取りなしても、どうにもならぬでござろうな」
瓶之真は軽く言った。
「や、やはりそうなのですか…」
お満はガックリと肩を落とした。そんなお満に瓶之真は優しそうに話を続けた。
「いやいやお満どの、方法はございますぞ」
瓶之真の言葉にお満の顔が明るくなった。
「ど、どのような方法でございましょう?」