是奈でゲンキッ!W 『デッドヒート・ラバース』-2
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実は是奈。最近始めた事がある。
運動不足解消の為と、最近気になりだしたウエスト辺りのお肉を引き締めようと、毎朝早起きをしてジョギング成らぬ、自転車でのトレーニングである。
是奈はいつもの様に紺色のトレーニングパンツとTシャツスタイルに成ると、その上から赤いレーザーのジャンパーを羽織って、指だけを出した皮のグローブを両手にはめ込んだ。
何を隠そうこの赤いジャンパー、是奈が大好きなテレビアニメ『スペースヒーロー』に登場するヒロインが着ている物と同じデザインの物だったりする。アニメ製作会社がネットで限定発売した物を通販で買ったという代物で、おまけに是奈は、これまたアニメのヒーローが掛けていた物と同じ、ほとんど顔が隠れてしまいそうなスモーク仕立てのゴーグルをも掛け込むと、更にスポーツサイクリング用のヘルメットまで被りこんで、最早、知人が見たところで是奈であることなど全く解らない程の出で立ちをして、颯爽と自転車に跨り、ようやく明けかかった薄暗い町の中へと繰り出して行くのであった。
いやはや、こうなると女の子なんだか男の子なんだか、近くで見ても解らないくらいだろう。
そんな怪しげな格好をして、軽快に走り行く是奈の自転車は、言わずと知れているであろうか、前回から登場した例の、『金色の派手なママチャリ』である。そう、是奈の憧れる『田原 嘉幸(たはら よしゆき)』が、まさか是奈が乗るものだとはつい知らず、是奈の父親である善太郎と共に、自分達の趣味丸出しで特注したと言う、いわく付きのママチャリであった。
どうやら是奈は、このママチャリでもってご町内を一回り、そんな所が日課なのであろう。とりわけ元気一杯だったりもする。
「なんだか朝から早起きしてこんな事してると、部活動の朝練(あされん)やってるみたいだなぁ」
是奈がそんな事をのん気に呟きながら、表参道をママチャリでもって軽快に走っていると、何やら同じ様な出で立ちでもって、やはり朝のトレーニングなのだろうか、一心不乱に大きな自転車を漕ぎ、走る若者の姿が眼に飛び込んで来た。
是奈は、走りながら追いついたその彼の後に付いて走りながら、
「それにしてもこの人の格好って、なんか変かも」
と、自分の事はさて置き、相手の事を苦笑していた様子だった。それは相手も同じだった様である。後から付いてくる是奈をチラチラ見ながら、
「なんだこいつぅ、派手なジャンパーなんか着て。それに何だか良く見えないが、そんなママチャリで俺の走りに付いて来れる訳ねーじゃん」
と、何気に「フフンッ」と鼻で笑ったりもする。
是奈は思った。
「もしかしてこの人も『スペースヒーロー』のファンなのかなぁ? なんか着てるジャンパーって『ミューヒ大佐』が着てる金色のパイロットスーツに似てるし。ああっでも背中に『隊長ジャン』って書いてあるから、これって少し前に缶コーヒーの懸賞で当たると、もらえたやつかなぁ。そう言えば、あたしってくじ運とか無かったんだっけっ」
そんな事をブツブツ言いながら付いて来る是奈に、相手も。
「いい加減うざってー野朗だなぁ。まぁどうせ付いて来れる訳ねーしぃ、この辺でぶっ千切っておくかっ!」
そう呟きながら、さらに自転車を漕ぐスピードを上げたようである。
「えっ! 何この人!? けっこう早いかも!」
是奈は、前を走る自転車がスピードを上げた事に、少し興奮をおぼえていた。何やら人間の闘争本能と言おうか、小さい頃から近所に同じ年頃の女の子の友達が居なかったせいもあり、男の子達と遊んでいると、どうしても『競争だッ!』とか
『おれっ正義もんっ! お前、怪人やれッ!』
『ヒィーッ!』
ってな遊びが多く、そんな幼少時代を過ごしたせいもあり、どうやらこう言ったどうでもいいような勝負事に、なんとなく体が反応してしまうようである。
どうやらそんな気持ちが抑えきれず、いつしか前を走る相手の自転車に負けじと、ペダルを漕ぐ足にも力が入って行った。