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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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是奈でゲンキッ!W 『デッドヒート・ラバース』-3

「こいつうぅ……なかなかやるなぁ! この市内で負け無しの『チャリンコ野朗』としては、この勝負受けるしかないってか!」
 どうやら前を走る相手も、同じような事を考えていた様子である。嬉しそうに ”ペロリ”と舌なめずりをすると。
「よーーしっ! じゃぁしっかり付いて来いよっ! クレイジーな走りってやつを見せてやるぜ!!」
 とばかりに、更なる勢いでもって二台の自転車は加速を開始したのであった。

 表参道を通り抜け、チョコマカと曲がりくねったテクニカルな路地裏を突っ切ると、小高い丘に向かう上り坂に出た。
 しかし二台の自転車は、そんな坂など物ともせず、抜きつ抜かれつ、一気に駆け上がると、今だ勝負が着かないと言ったところだろう。とうとう問題の『氷坂』まで勝負が縺れ込んだようである。
 
 二台の自転車は横一列になって『氷坂』を下り始めると、お互いに一歩も譲らず、更なるスピードを上げて行った。
 直線で200メート程度の緩い下り坂。そんな所を2台の自転車が猛スピードで走り抜けて行く。
「ここって確か、以前『下り坂タイムトライヤル』とかってのをやった坂よねっ!」
 是奈は坂を下りながら、一月程前にこの坂のお陰で酷い目に合った事を思い出し。
「確かこの先がT字路になっていて、止まれないと田んぼに落っこっちゃうんだったわよねっ!」
 そんな事を考えつつ ”ゴクリッ”と唾を飲み込みながら、横に並んで走っている相手の様子を、横目でチラチラ伺ったりしていた。
「どうしよう……先にブレーキを掛けた方が、負けになっちゃうのかなぁ」
 何気に勝負の付けどころを、思案したりもする。
 しかしながら勝負がうんぬんより、まずは自分の安全確保が先決である。是奈はそう考えると少し漕ぐ勢いを弱めたりもする。
 ところが、どうやら相手はこの先の道路状況を知らないのか、わき目も振らず、一心不乱に突き進んで行くのみである。スピードを落とすどころか、勢いに乗って益々加速して行ったのであった。
 是奈は思った。
(この人、この先のT字路の事知らないんだ! まぁでも〜……仮に田んぼへ落っこちたとしても、ケガをするような事も無いだろうしぃ)
 そんな事を思うものの、取り分けて危険では無いと言う事を身を持って立証しているだけに、相手に対して、あえて警告などもせず、大丈夫だろうと言葉を交わすことも無く、無視して走り続けていた。
 それでも気が付けば、もう間もなくゴールのT字路である。
「確かあのゴール手前3本目の電柱で、ブレーキを掛けるんだったわよねっ!」
 是奈は、クラスメイトの『中村彩霞(なかむら あやか)』に教わった、この坂の攻略法とも言うべき、ベストブレーキングポイントで有る ”K点 ”とのタイミングを見計らって、一気にフルブレーキングを掛けた。
 高性能な高級金色ママチャリは、そのブレーキ性能を余り無く発揮するや、たちどころに是奈の乗ったチャリンコのスピードを落として止まってくれた。
 が、しかしである。
 そんな是奈を尻目に、何を考えているのか相手の若者を乗せた自転車は、K点を越えても止まる気配すらない。
 これは間違い無い、彼は田んぼへダイブするであろうと、是奈が思ったその時だった。
”ズギャギャギャギャアーーーーーッ”
 なんと若者は、乗って居る自転車の後輪をロックさせるようにして滑らせると、道路に対して真横に成り、更には地面に倒れ込むようにして、自転車ごと身体を倒し込んだのだった。それはまるで、野球の選手が盗塁をして足からスライディングをするかのごとく、はたまたラリーカーが急なカーブで4輪ドリフトでもしたかのごとく、横滑りをしながらベダルをアスファルトに擦りつけ火花を散らしながら、T字路へと飛び出して行ったのであった。


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