星司の過去その1-1
【星司の過去その1】
「もう!陽子さんて変な事ばっかり!これじゃあ、いつまで経ってもお話を聞く雰囲気にならないじゃないのよ」
優子は陽子が同じ様な事を繰り返して、一向に進まない話に少し苛ついた。
「ごめんね。少しテンション上げないと話をするのが辛くてね。だから少しバカやっちゃった」
「えっ?」
いつもの様に茶化して返されると思っていたのに、思い掛けず陽子がしんみりと言ったので優子は驚いた。
「陽子さん…」
「ごめん。もう大丈夫よ、さあ、星司のことを話すわね」
陽子は気持ちを切り替えるようにして微笑んだ。
「優子ちゃんにはいきなりショックな事から話すわね」
「は、はい、お願いします」
「星司は結婚してたの」
「えっ…」
本当にいきなりの内容だった。優子は衝撃の余りに胸が痛くなってきた。
「と言っても籍は入れてなくて、事実婚ってやつかな」
その言葉でホンの少し優子の衝撃は和らいだが、それでも中々立ち直れるには程遠い。
「相手はね。あたしと星司の高校時代の同級生なの。3人とも特選クラスよ。こう見えてもあたしも優秀だったのよ」
陽子は自嘲気味に笑った。
「大人しくて、可愛くて、頭のいい子だったわ。名前は『ゆうこ』って言うのよ」
「えっ?」
優子は星司の相手が自分と同じだったことに驚いた。
「そう、優子ちゃんと同じね。でも、漢字が違うわ。悠久の『悠』に子供の『子』で『悠子』よ」
「そ、それでその悠子さんがどうしたの?」
始めて出てきた人物の名だが、その影が全然見えないので優子は気になった。
「星司と悠子は高校2年生の頃から付き合いだしたわ」
陽子は少し当時を思い出すような遠い目をした。
「2人の交際は大学まで続いた。でも、4年の時、卒業する頃に悠子から別れていったの」
「どうしてですか?それに別れたのに結婚ってどう言うことですか?」
優子には訳がわからなかった。
「恥ずかしい話だけど家庭の事情なの。悠子との結婚を家が猛反対したのよ。星司も真面目な子でそれを気に病んでかなり落ち込んでいたわ。悠子にそんな姿を見せなかったけど、わかるものね。結局、悠子の方から別れたの」
「それって家柄とかですか!それなら酷いです。酷過ぎます」
優子は自分に置き替えてみてその理不尽さを嘆いた。