気の置けない存在-8
一頻り笑ってそれが落ち着くと、陽介の視線に気付いた。
目を細めて微笑むその表情が、愛しい人を見るような優しいものだったからか、自分の頬が火照るのがわかる。
「な、何……?」
それに動揺したのか、少しどもる自分がなんとも恥ずかしい。
対して陽介は、そんなあたしを意にも介さずに、ニッと笑った。
「くるみちゃん、俺と友達になんねぇ?」
「え?」
「そ。くるみちゃんの恋愛に依存しないとことか気に入っちゃった。インドアなとこも俺と同じだし。多分俺ら似たもん同士だよ。だからきっと気が合うと思うんだ。だから友達になろうよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 急にそんなこと言われたって困るわよ!」
咄嗟に浮かぶ、スグルの笑顔。
いくらなんでも、これはスグルに申し訳なさ過ぎるでしょ!
必死で首を横に振って、陽介の申し出を断る意思を見せる。
なのに、陽介は涼しい顔してラーメンを一口啜ってから、もう一度あたしの顔を覗き込んだ。
「なんで困るの? 友達だよ? 別に付き合ってって頼んでるわけじゃねえし」
「だ、だってあたし……彼氏が……」
覗き込んだその顔にまた変に照れてしまって、陽介をまともに見られない。
ほとんど食べていないラーメンが、静かに湯気を立てているだけ。
決して相手がイケメンだからって理由だけじゃない。
こうやって直球でパーソナルスペースに踏み込んで来る人間がはじめてだったから、戸惑っているんだ。
――それに、男の子との友情って成立しないってわかっているから。
いじめられていた中学、高校時代。もちろんあたしに女の子の友達なんて皆無で、いつも一人ぼっちだった。
そんな時、いじめられているあたしに普通に話しかけてくれたのは、女の子ではなく男の子だった。
内容はテレビの話とか、部活の話とか、そんな他愛のないものだったけれど。
それでも、友達のいないあたしにとって、話しかけてくれるだけで、休み時間や昼休みに一緒に過ごしてくれるだけで、随分救われたものだ。
くだらないバカな話で笑ったり、寝るまでメールしたり、性別は違っても友情は成立するもんだって思ってた。