気の置けない存在-11
「自然体?」
湯気で曇る陽介を見つめながら首を傾げていると、彼はまた箸を休めてこちらに向き直る。
「うん。なんでか俺、くるみちゃんといると男友達と一緒にいるみたいに居心地がいいんだよね」
「会って間もないのに?」
「うーん、くるみちゃんが飾らない娘だからかなあ? プレゼント選びの時も遠慮なくダメ出ししてくるし、今日の御礼に何食べたい? って訊いてもこんな汚いラーメン屋連れてくるし、ニンニクドバドバラーメンに入れるし。そういう女を感じさせないとこが気に入ったんだ」
カウンターテーブルに肘をついてニンマリ笑う陽介に、あたしは割り箸を咥えたまんま、俯いていた。
確かに、どうせもう二度と会うことはないと思ってたから、あたしは陽介に対して気を遣わなかったし、言いたいこともハッキリ言った。
でも、改めてそれを指摘されると死ぬほど恥ずかしい。
左手で真っ赤になっているであろうほっぺたを押さえていると、陽介がプッと噴き出した。
「いいじゃん。くるみちゃんのそういう飾らないとこ、いいと思うよ? おっさんぽくて全然色気感じさせないし」
「それはそれで、随分失礼じゃない?」
ジロリと睨んでやると、陽介は舌を出して小さく肩を竦めた。
「そう言う意味じゃなくて、それだけ気の置けない存在になれそうって意味なんだけどな」
「気の置けない存在……」
屈託のない彼の笑顔を見てると、なんだか嬉しさが込み上げてくる。
異性としてじゃなく、一人の人間として好意を持ってくれたような気がしたから。
「そう、だからそんな小難しいこと考えないで、軽い気持ちでさ?」
その人懐っこい笑顔があまりに無邪気で、ついついこちらまで笑顔になってしまう。
軽い陽介のノリが伝染していくみたいに、次第に躊躇いが消えていく。
コイツとなら、異性という壁を乗り越えた友達になれるかも……。
陽介は、最初に「恋愛感情は持たない」って宣言したし、あたしもあたしで初っ端から素の自分を晒してしまったし。
何より、心のどこかでは陽介とこのまま他人に戻るのが名残惜しくなっていた。
だからあたしは気付いたら――。
「ちょっとでも変な真似したら、思いっきり殴るからね」
それだけ言って、すっかり伸びてしまったラーメンを啜り始めていた。
クスッと小さく漏れた彼の笑い声を、隣で聞きながら。