加藤綾美の価値-7
暫く部屋を探したが特に何も見つからなかった。部屋には必要最低限なものしかなく、逆に探す場所もそんなにはなかった。
「とりあえず犯人が特定出来ただけでも収穫だわ。とにかく署に戻って報告しましょう。」
静香と若菜は鍵を大家に返しお礼を言って帰途につく。
電車を乗り継ぎ署に帰った時は夕方。静香は早速署長室にて署長の島田と部長の中山に報告をする。
「体調不良で休養しているとされるクジテレビの加藤綾美は、実は婦警拉致事件の犯人グループに拉致された事が分かりました。」
「加藤綾美…」
複雑そうな表情で目を合わせた島田と中山が気になる。
「加藤綾美は理由は分かりませんが船橋の自宅以外に秘密でアパートを借りていました。失踪前日は仕事を終えた後、葛北にあるアパートに行った事が確認されました。専属のタクシー運転手が深夜3時頃、彼女を葛北駅に降ろした事を証言しました。それから徒歩でアパートに向かい事件に巻き込まれた可能性が高いと思われます。彼女の部屋で…」
そう言いかけた時、島田が言葉を遮るように言った。
「皆川、加藤綾美の件については関わるな。」
意外な言葉に綾美は唖然とする。
「ど、どうしてですか…?」
言いずらそうに口を開く島田。
「警視庁本庁からの指示なんだ。加藤綾美についての捜査は一切行わないようにとの、な。」
「ど、どうしてですか!?犯人は同じなんですよ!?婦警拉致と加藤綾美の件は連動して捜査すべきです!!」
「気持ちは分かる。でもな、上からのお達しだ。分かるだろ…?」
「で、でも…」
静香は言葉を飲み込んだ。島田も中山も納得はいっていないだろう。しかし組織の中、上層部からの指示には逆らうべきではない。静香も島田らの気持ちを汲み取った。
「す、すみませんでした。分かりました。これ以上深追いするのは止めます…。」
「ど、どうしてですか先輩!!」
島田らの気持ちを読めない若菜は当然おかしいと騒ぐ。
「ぅるさい!!」
若菜の頭をひっぱたく。
「痛ったぁぁい!!」
悶絶する若菜。そんな若菜を引きづるように連れて署長室を出た。
「せ、先輩!!」
「若菜、ちょっと屋上で話そうか。」
「は、はい…。」
静香は若菜を連れて屋上に上がる。もう殆ど日が暮れようとしていた。微かに吹く風が静香の髪を靡かせていた。