加藤綾美の価値-6
有力とは言えコンビニ店員の証言以外、何の証拠もない。静香はメゾン・メルシールの入居者募集の看板に書いてあった連絡先へ電話をしてみた。すると大家と言う男性がこのアパートの一室に住んでいるとの事で、電話を切るとすぐに出てきた。ふくよかな愛嬌ある笑顔を見せる老人だった。
「大家の大家です。名前が大家だなんて、まさに大家にうってつけだろ?ガハハ!」
名前も大家と言うらしい。静香と若菜は多少引きつった笑顔を浮かべて対応する。事情を話すと快く部屋へ案内してくれた。
「確かに契約者は加藤綾美さんという若い女性だね。ただ、保証人を立てない代わりに2年分の家賃を前払いすると言ってきてね、私も家賃さえ確保出来れば特に問題ないからOKしたんだよ。」
「加藤綾美さんで間違いないんですね??じゃあどちらかと言うと誰にも内緒で借りたような感じですか?」
「ああ。そんな感じだね。」
そう言いながら鍵を開けた。
「大家とは言え、若い女性の部屋に入るのは何だから私はここでお邪魔するよ。終わったら101室に訪ねて来てくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
大家は巨体を揺らしながら階段を降りて行った。静香と若菜は206号室に入った。
玄関で靴を脱ぎ部屋の中に入ると思わず声を上げた。
「あっ…!」
と。目の前には何か争ったような形跡があったからだ。パソコンの電源は入ったままだった。エンターキーを押すと画面が現れた。
「こ、これは…。」
覆面男が加藤綾美を背後から抑え股間を丸出しにされた写真に、画像加工で『ようやく見つけたか?トロい日本のポリスちゃん』と書かれていた。
「完全に繋がったわね。加藤綾美は何かの目的で覆面男達に拉致されたんだわ。」
「はい。」
ようやく確信した。部屋には加藤綾美が性的暴行を受けたであろう物証がいくつか転がっていた。
「私のよりもゴツい…」
床に転がるバイブを見てそう呟いた若菜は無視して部屋の中を見渡す。
「動画サイトに投稿されていた動画の背景と同じ…。あの動画は本人がここで実際に撮影されたものだわ。」
間違いなくこの部屋で行われた動画である事も分かった。
「でも、どうして加藤綾美はこの部屋を誰にも内緒で借りたんだろう。」
謎だった。
「思い切りオナニーしたかったんじゃないですかね〜?」
「…」
若菜を無視して部屋を確認する。若菜の意見は当たっていたが、結局は特に事件解決の要素にはならない事だけは確かだ。何故この部屋を借りたかではなく、何故加藤綾美が誘拐されたのかが重要だ。部屋にある卑猥な玩具に興味津々の若菜を横目に、静香は部屋の隅々まで重要な物証がないかを探した。